奈良市が里親を募集している保護猫の独特なネーミングを紹介したX(旧ツイッター)の投稿が、8万件以上のいいねを集めている。「ハチャ」「メチャ」や「てんや」「わんや」など、対になっているユニークな名前も大好評。名付けを担当する職員に話を聞いた。
市保健衛生課の江端資雄さん(71)が話題の“名付け親”だ。獣医師の資格を持ち、もともと奈良県職員として動物行政を担当。定年後も、市職員として動物たちの保護を担う。体重を測ったり、ノミやダニの処理をしたり、体の弱っている子の面倒を見たり…。受け入れる動物の数は猫を中心に年間約150匹にのぼり、譲渡先へと命をつなぐために汗を流す。
名前のアイデアは普段からメモ
動物たちを思う気持ちを職員やボランティア、そして譲渡先の人で共有したいという思いから、必ず名前をつけるようにしているという。名前のアイデアは、普段から思いついた時に紙の切れ端にしたためて置いておく。それを猫の特徴に応じて振り分け、受け入れてすぐに名前で呼べるようにしているそうだ。
尻尾を見て「フサフサ」、目がくりくりなら「クリちゃん」、表情がきょとんとしていたら「キョトン」、小さい体で元気いっぱい走り回るきょうだいには「ハチャ」「メチャ」「クチャ」と名付けた。ストレートでかわいらしい名前の付け方が、SNSで「センスがある」「里親になりたい気持ちが湧く」と話題になった。
救えなかった「ぼっち」ちゃんの命
そんな中で、一度だけ名付けで後悔した経験があるという。昨年、路上で雨に打たれているところを保護された猫のことだ。江端さんは、かわいそうな境遇を見て「ぼっち」と名付けた。懸命な手当てのかいあって無事に元気になったが、しばらく引き取り手が見つからなかった。「ちょっと名前がよくなかったかな」と思っていた矢先、FIP(猫伝染性腹膜炎)という難病にかかっていることが発覚。約1カ月後、ぼっちちゃんは息を引き取った。
「ネガティブな名前が悲しい運命を引き寄せてしまったかもしれない」「引き取り手も付きにくかったかも」と申し訳なく思ったという。それ以来、徹底して明るいイメージの名前だけを付けるようにしている。
江端さんとしては「名前は暫定のものだから譲渡先で変えてもらって構わない」と思っているが、半数以上の飼い主がそのままの名で飼っているそうだ。同市では、譲渡した1カ月後に「近況報告」をしてもらう決まりになっており、江端さんもその時に猫たちの幸せそうな写真を見ることができる。「良い人にもらってもらって良かったね、と思う瞬間が何よりの楽しみです」
大反響…奈良市公式LINEの登録者が急増
4年連続で「犬猫の殺処分ゼロ」を達成している奈良市。猫たちの写真や譲渡会の情報を公式LINEでも登録者に発信しており、今回、Xではこの取り組みが話題を呼んだ。「市でこんなに手厚く募集や譲渡会してくれるなんてすごい」「こういう見せ方は、里親になりたい気持ちを湧かせる」といった反応があった。反響をきっかけに、LINEの登録者が3日間で1万5千人増え、10万人を突破したという。
江端さんのもとにも複数のメディアから取材があり「狐につままれたようで…。本当に恐縮です」と反響に驚いている様子。それでも「これをきっかけに私たちの取り組みを知ってもらい、譲渡につながるかもしれません。ありがたい限りです」と喜ぶ。猫などを飼っている人やこれから飼おうとしている人に向けては「責任感と覚悟を持って、最期まで面倒を見てほしいです」と呼びかけている。