飼い主の死去後、奈良のブリーダーから兵庫の同業者へ 長い旅が終わり今は新しい飼い主さんと平穏な日々 「これからも大事に大事にしたい」

渡辺 陽 渡辺 陽

飼い主が迎えに来ない

オーちゃん(13歳・オス)は、大阪府在住のWさんと暮らしている。Wさんは、ひょんなことでオーちゃんが繁殖犬になった経緯を聞いた。

子犬の頃は、奈良県大和郡山市で犬のトリマーを育成する専門学校のオーナーに飼われていた。たいそう可愛がられて、しょっちゅう高級車でドライブをしたり、オーナーが親しくしている奈良県のブリーダーのところに遊びに行っていたという。

奈良県のブリーダーのところで働いていた人によると、「オーちゃんが4歳の頃、オーナーはオーちゃんを奈良県のブリーダーのホテルに預けに来たそうです。病気で入院するということでした。最初は1カ月預かる予定だったそうですが、2カ月経っても、3カ月経っても、4カ月経っても誰も迎えに来なかったといいます」

その後、ブリーダーはオーナーが亡くなったことを知った。遺族の奥さんと子どもは引き取りに来なかった。

「あまり評判の良くない奥さんだったので、ブリーダーは『返してはダメだ。うちで繁殖犬として飼う』と決断したそうです」

家庭犬から繁殖犬へ

その後、オーちゃんは、冷暖房完備のホテルの部屋を出て外の犬舎に移った。今までと違って暑い日も寒い日もある。ただ、人に慣れ親しんでいたので可愛がってもらったそうだ。8歳まで繁殖犬をしていたオーちゃんは、何匹も子孫を作った。Wさんが親戚探しサイトに登録すると40匹以上の親戚がいた。

その後、ブリーダーは知人から、「どうしてもすぐに種オスが欲しいというブリーダーがいるが、犬を譲ってもらえないか」と相談された。その時、仲介してくれた人の人柄が良かったので、「あと1回か2回しか繁殖できないと思うが・・・」とオーちゃんを譲渡したという。

奈良県から兵庫県に移ったオーちゃん。そこでは400匹もの小型犬を飼われておりなかなか散歩も満足にさせてもらえなかった。やがて生殖能力の落ちたオーちゃんは、譲渡サイトに掲載された。Wさんは、オーちゃんの写真を見て一目惚れした。

「笑顔が可愛くて、すぐに犬を飼うつもりではなかったのですが、『この子だ!』と思いました。先代犬を亡くしてから2週間後のことでした」

兵庫県の山奥にあるブリーダーの犬舎まで引き取りに行くと、道端にオーちゃんが繋がれていた。脚に何ができていると言うので見てみると、脚の裏が赤くただれていた。欲求不満でしょっちゅう手を舐めていたようだった。シャンプーはしてもらったことがないようで、ものすごい臭気を放っていた。

「ただ、オーちゃんはとても元気で9歳半とは思えませんでした。私の車にぴょ〜んと飛び乗り、まるで『さあ!行くよ!!』と言っているようでした」

再会

2018年12月1日、おとなしく車に乗って大阪までやってきたオーちゃん。迷わず家に上がると、満面の笑みで喜んでいた。次第に家庭犬としてすっかり落ち着きを見せてきたオーちゃん。

2022年、ペディという親戚探しサイトに血統書を登録すると、奈良で繁殖犬をしていた時に気に入ってくれた人が見つけてくれた。その人のゴールデンレトリバーと交配してできた子どもと孫がいるという。「ぜひ会いたいですね!」という話になり、Wさんは2023年の夏にオーちゃんを奈良まで連れて行った。

そこには奥さん犬の春ちゃん、子どもの秋ちゃん、孫の夏ちゃんがいて、夏ちゃんはオーちゃんにそっくりだった。7年ぶりに再会した春ちゃんとの息もぴったり。他にもたくさんの親戚がいることが分かり、オーちゃんの血筋は確実に引き継がれていた。繁殖犬として辛いこともあったかもしれないが、みんながオーちゃんが今も元気でいることを喜んでくれている。

Wさんは言う。

「こんなに愛されて幸せな子です。これからも大事に、大事にして暮らしたいと思います」

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