日本独自の「進化するアフタヌーンティー」 ヌン活が人気になった…意外な2つの理由とは

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今や”ヌン活”と呼ばれ、身近な存在となってきているホテルのアフタヌーンティー。かつては昼下がりに、三段トレイにのったスコーンやサンドイッチを優雅にいただき、とっておきのイベントというイメージだったのではないでしょうか。

が、今は客層の年齢層も下がり、3〜5回転する人気企画であれば朝からいただく人もいるほど活気あふれるように。いったい、いつのまにこんなに人気に?

この熱狂ぶりについては、「日本独自のもの。昔と今では、アフタヌーンティーの目指す方向性が異なってきています」と語るのは、ホテル業界でのアフタヌーンティーの仕掛け人「W大阪」総支配人の近藤 豪さん。スイスのレ・ロッシュ大学でホスピタリティマネージメントを学んだ後に、国内外で20年にわたって、ラグジュアリーホテルブランドに従事してきた人物です。

変わるきっかけは、「アフタヌーンティー(スイーツ)ブッフェとコロナ」、特に”いちごブッフェ”が転換期だったとのこと。どんな背景があったのかを取材しました。

いちごブッフェのヒットを”ヒント”に

関西では、2011年に「ホテルニューオータニ大阪」がいちごブッフェの口火を切り、2015年に「ザ・リッツ・カールトン大阪」が加わり、その2つのホテルが大好評だったことから、”これはヒットになる”と2016年以降は爆発的に増えた”いちごブッフェ”。今や1月〜5月にかけては関西では定番イベントとなっています。

いちごブッフェの成功を機に、それまで大幅に変わることのなかったメニューが、夏なら南国フルーツ、秋なら栗・カボチャ・芋、またハロウィン企画も人気に。冬はチョコやクリスマスをテーマとするなど、スイーツ内容もデコレーションも一新するスタイルとなりました。

そんななかで先述の「ザ・リッツ・カールトン大阪」でいちごのブッフェを企画したのが、2014年に副総支配人(運営統括部長)として着任したばかりの近藤さん。「たくさんのお客様にお越しいただき予約も困難に。以降はアフタヌーンティーブッフェの考え方を変えて、テーマ性を重視するようになりました。そのとき、それまで流行っているイメージがなかったアフタヌーンティーも同様に考えられるのではないのかと思ったのです」。

コラボアフタヌーンティーが大阪のホテル業界を席巻

そこで早速、”パティスリー界のピカソ”といわれるピエール・エルメとのコラボを、2015年7月に実現。するとピエール・エルメのファンと、期間限定というレア感から予約が殺到したのです。「営業活動するなか、ラグジュアリーブランドのご担当者様にお会いし、なにかホテルでできないかとお問い合わせいただくことも。そこで、アフタヌーンティーをひとつの候補として先方に提案してみたのです」と、普段だったら”食”と結びつかないファッション業界にも目を向けたのだそう。

2016年にはイギリスの宝石商「グラフ」、2017年には憧れの靴ブランド「マノロ ブラニク」とのコラボアフタヌーンティーを実現させるためへと画策。それらは大成功をおさめ、「セント レジス 大阪」で総支配人に就任してからも、引き続きさまざまなコラボを企画。そして、現在の「W大阪」でも、ほかにはないアフタヌーンティーを目指して動き続けています。

以前であれば、30歳前後の女性や、母娘での来店もも多かったそうですが、女性があこがれるブランドとコラボすることによって年齢も広範囲に。価格帯は高めにも関わらず、20代も増え、女性グループでの来店が増加。学生の姿も珍しくなくなったそうです。このように若い世代がアフタヌーンティーに訪れることで、ブランド側はターゲットであるZ世代へアプローチできるというメリットも。しかも、SNSで拡散してもらえるという、まさにWin-Winの関係性となったのです。

その動きは関西に留まらず、都心部のホテルでも同じようにコラボやテーマを設けた季節替わりのアフタヌーンティーが増加。数カ月のコラボが終わったら、通常のアフタヌーンティーに戻すところもありますが、コラボ時の人気の差が激しくなってしまうという難点も。そこで、デザートブッフェのように、アフタヌーンティーも季節ごとで変更していったため、通年のアフタヌーンティーを提供するホテルが以前と比べて少なくなったのです。

なぜコロナがアフタヌーンティ人気に拍車を?

「コロナウイルスで感染拡大を防止するためにブッフェが軒並み中止となったのも、アフタヌーンティーが変わる大きなきっかけとなりました」と近藤さん。これまでのお楽しみが一気に消えたなか、少人数で食すアフタヌーンティーは、外出制限されるなかで数少ない”ご褒美”として重宝されるように。

また、ホテルでのイートインを避けたいという人に向けて、2020年初夏から「ザ・リッツ・カールトン大阪」「セント レジス ホテル 大阪」「ホテルロイヤルクラシック大阪」などが、テイクアウトできるアフタヌーンティーを立て続けに販売。

特に、そのままテーブルに置けば三段トレイ気分があじわえる「セント レジス ホテル 大阪」によるボックスは話題となり、またたく間に各ホテルへとも広まっていきました。

「セント レジス ホテル 大阪」の広報担当者ジェップ聖子さんは、「コロナ禍のピークに比べると2/3程度に落ち着いていますが、現在はおうち用というよりも、お祝いやパーティ用として、ケーキ代わりに購入される方も。新たな用途が生まれているようです。また、コロナ以前はアフタヌーンティーよりもデザートブッフェの方が人気がありましたが、アフタヌーンティーの利用者が増えて、現場では”ヌン活”人気の高まりを感じています」。

見た目もどんどんと変化・進化

もうひとつ進化したきっかけの理由はSNSの普及。それまでは、三段トレイがおなじみでしたが、ホテルの個性を出すために、プレート型、お重、変形型など、”どう提供するか”が重要となったのです。そのなかでも、近藤さんが革命的と感じたのは「コンラッド大阪」のアフタヌーンティースタンド。

「コンラッド大阪」で提供されるのは、ロビー40階から39階へとつなぐ階段を再現した「らせん型」。2017年に開業した際は、赤い漆を施した和箪笥型のスタンドが有名となり、こちらは知る人ぞ知るスタンドでした。

というのも当時は、和箪笥はスイーツ、らせん型はセイボリー(軽食)で分けており、スイーツが女性人気が高いことから告知されていたのは前者。しかし、らせん型の存在に気づいた人から、「スイーツバージョンが食べたい」「これで写真を撮りたい」という声が高まり、2019年にこちらをスイーツメインのメニューに切り替え。コロナ禍以前の2019年から比べても、倍に近いペースでオーダー数が増えているのだそう。

「アフタヌーンティーは今やホテルにとっては、重要なブランディングのひとつ。日本のヒルトングループホテルでは、若い世代にも親和性の高いスイーツに注力しており、コンラッド大阪だからこそ味わえるストーリー性も大切にしています。もともとは台数が少なかったためセイボリー用に限っていたのですが、こちらをメインにしてからまさに当ホテルらしい体験を楽しんでいただけているのではないかと」と、広報担当者の大塚妙香さん。コンラッド大阪では、7月9日までは、チェリーをテーマにしたアフタヌーンティーを提供中(7000円、テイクアウト2名分9000円)。

ホテルを体現したスタンド?

そして、2021年開業の「W大阪」では、シェフたちが開発に力を入れた「Black Box(ブラックボックス)」がアフタヌーンティースタンド。建築家・安藤忠雄による同ホテルの外観を約1/300サイズのアクリルボックスで再現。その箱を持ち上げると、小部屋が非対称に並ぶようなスタイリッシュなスタンドが現れます。

「昔の大阪商人は、外の羽織は地味に見えても、裏地は派手な柄を着ていました。当ホテルも、外から見ると地味でも、中に入ると艶やか。そんなスタイルも表現できているものになったと思います」。また、全メニューを一度に一望できないことから回転式にこだわったのが功を奏して、”動画映えする”と話題に。今や箱を開け、回転するところまでを一連の流れとして録るのが、おなじみとなっているそうです。

そのスタンドを用いて、「W大阪」のコンセプトである”大人の遊び場”に沿って、関西では初となるジュエリーブランド「ハリー・ウィンストン」、SDGsを意識した「エシカル・ストロベリー」などをロビーラウンジ「LIVING ROOM」で開催。また、元AKB48の小嶋陽菜がクリエイティブディレクターを務めるブランド「Her Lip to」とコラボした際は、1階のカフェを会場にかわいらしいクラシカルな3段トレイで提供するなどテーマによってスタイルを変えることも。

現在は、世界中でLGBTQ+の権利を啓発するために催されるプライド月間にあわせて、画家キース・ヘリングをテーマとしたセットを6月30日まで提供(1人7500円)。マンゴージュレ アプリコットソース、グリオットチェリーとピスタチオケークなど、旬の果物を使って色鮮やかなレインボースイーツに、レコードジャケット「Duck For the Oyster」から着想を得たグリーンピースのタルト キャビア添えなど、フレンチのコースに出てきそうなメニューが計13種並んでいます。

「今後もこれまでにはないアフタヌーンティーを目指していきます。しかし、なんでもコラボするというわけではありません。あくまでも当ホテルのパッションポイント(情熱を注ぐポイント)である、スタンス、サウンド、シーン、テイスト、ボディを軸にセレクトし、W大阪らしさを追求していきます」と近藤さんは語りました。

かつてのアフタヌーンティー、今後のアフタヌーンティー

「かつてのアフタヌーンティーは、いかにイギリスらしく、最上級のアフタヌーンティーを提供するかを重視していました。もう20年以上前になりますが、イギリスの高級ホテル「ザ・ドーチェスター」や、シンガポールの「フラトンホテル」にもリサーチして勉強しました。何回も作り直しては、クオリティの高いクラシックなメニューを目指したのです」と近藤さん。

ただ、その頃であれば、お客は1日1回転。しかし、今は3回転も普通となり最高で5回転ということも。「当ホテルが本社を構えるシンガポールでは驚きの現象。いったいなぜ、そんなことになっているのかと最初は驚かれました。ただ海外の有名高級ホテルであれば、定番アフタヌーンティーを目当てに海外から訪れる観光客も多いので、この動きはやはり日本ならではのマーケットかと思います。ただ、期間限定のものが増えた今、もしかするとクラシックなアフタヌーンティーの需要が変わってくるかもしれません」。

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ここ数年で、格段に進化を遂げたアフタヌーンティー。スイーツは色鮮やかで、食感もひとつずつ異なるように。さすがに定番のスコーンなしというのは、現時点では聞いたことないのですが、プレーンだけではなく、1つ(もしくは2つ)はフルーツやお茶などの食材を練り込むなど季節限定の味に。また、本場イギリスであればサンドイッチがおなじみですが、キャビアやトリュフなど贅沢な食材を使った凝ったセイボリー(軽食)も登場するなど、贅沢な装いとなっています。

アフタヌーンティーが進化することで、ホテルの企画力も問われるように。実際、ホテルニューオータニ大阪では、「刀剣乱舞ONLINE スペシャルアフタヌーンティー」(6/9〜7/12)、シェラトン都ホテル大阪「アフタヌーンティー ~ピーター・パンのネバーランド~」(5/1〜7/31)、クロスホテル京都のかき氷が付く「抹茶 サマー デライト」(6/7〜9/5)といったように変わり種も続出中です。いったいどこのを食べたいのか…利用者のリサーチ力も今後は重要となってきそうです。

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