タヌキの赤ちゃんが売られているペットショップで店員から「犬みたいに懐くし犬みたいに飼える」と言われたけれども、それって本当? という問いに対して、「”タヌキはたぬき” 残念ながら犬のようには飼えません」と、野生動物を飼育する難しさを語る投稿がツイッター上で注目を集めています。
ペットとして一般的な犬と同じイヌ科の動物であり、昔話やアニメなどにも親しみの持てるキャラクターとして登場するタヌキ。攻撃的なイメージは持ちにくいのですが、実際に飼育すると”野生動物”ゆえの苦労も多いよう。自身もタヌキを飼育する奥平耕一郎さんにお話を聞きました。
ツイートには「犬も難しいのに、野生動物なんて!」「今の家畜、ペットだって何世代もかけて家畜化、ペット化させた訳で一個体で変化させるなんて無理だし、身近な野生生物で今もペット化されてないって事はその種は基本無理って事なんよな」など共感の声や、「そうなのね…イヌ科だし子供の頃から人の手で飼育してたらある程度は犬に近い行動するのかと思ってたわ( ;´・ω・`)」と投稿から現実を知ったという声が寄せられていました。
一方、投稿された写真のタヌキが人間に体をあずけて眠る様子から、「かわいい」「ん、犬じゃん?」と言う人も。「子どもの時から『犬』として育てたらこうなると?」という質問もあり、奥平さんは「犬みたいに飼えたら?どんなにラクで楽しいかと思いますが やはり犬とはまったく異なる動物ですね」と回答しています。
動物の生体販売や飼育用品の販売、撮影用動物のレンタルや撮影などを展開する「動物プロダクション・サイエンスファクトリー」(大阪府堺市)の代表を務める奥平さん。20年前から傷病鳥獣(ケガをした野生動物)などの保護対象としてタヌキを飼育し、現在は飼育施設で生まれ育児放棄された4頭のメスの仔タヌキを育てています。具体的なタヌキと犬とのちがい、野生動物の飼育への心構えなどについて聞きました。
本能に基づいた警戒心、身の危険を感じると攻撃も
――タヌキは撮影などで活躍することもあるのですか。
「残念ながら動物プロダクション関連での撮影のお仕事は、タヌキ達の繊細な性格さゆえに基本的にNGです。ツイッターやユーチューブなどで私達が紹介させて頂いている動画や映像は、彼らの生活圏の中で限りなくストレスフリーな状態で撮影し、部分的に切り取って使用しています」
――実際に飼って感じるタヌキと犬のちがいについては?
「見た目がイヌっぽいところもあるので習性や反応などをイヌと比較してしまいがちですが、イヌは人間がオオカミを長い年月をかけて品種改良し家畜化したもので人間に対し従順でしつけが入りやすい傾向がある動物です。それに対して、タヌキは野生動物としての本能に基づいた警戒心を持ち、人への服従心はなく自由奔放な動物です」
――そんなタヌキを「しつける」ことはできますか。
「タヌキの臆病な性格からも、大きな声を出したり叱るなどの行為は攻撃されたという認識を持たせてしまいやすく、信頼関係を損ねる原因にもなり得ますので、犬のしつけで重要とされる基本的な服従訓練などの躾らしいしつけは行っておりません。
また、犬で言うところのトイレの躾などはタヌキの『タメ糞』(数頭が決まった場所にフンをする)という習性を応用することで覚えてくれますが、マーキング行為に関しては至る所で行ってしまいます。なお、しつけとは違いますがエサに対する執着は強いので、お手やおすわりなどの芸なら簡単に覚えると思います」
――では、「人馴れ」という点では?
「人馴れの部分に関してはタヌキたちにとっては飼い主という概念はなく、行動や反応を見る限り同じ群れで暮らす家族や仲間という認識なのだろうと感じています」
――改めて、タヌキを「犬みたいに懐くし犬みたいに飼える」と考える人へのメッセージをお願いします。
「犬の飼い方も犬種や飼育環境、飼い主さんの考え方などによっても様々だとは思いますが、タヌキを愛玩犬のような感覚で飼育できるのは彼らが生後半年程度の時期までで、その頃を過ぎ性成熟すると、犬とは異なる野生動物独自の本能や習性が強く出てきます。
一夫一妻で家族単位の群れで行動するタヌキは仲間意識が強く、特定の飼い主には非常によく懐きます。しかし、動物同士同様に挨拶代わりに噛んでくるような行動も頻繁に見られ、じゃれ噛みのつもりで咬んできた時でも犬とは違い牙が鋭いので人は簡単に大怪我をしてしまいます。
一方、見ず知らずの人間に対しては警戒態勢を怠りません。飼育者の家族の人の中にでさえも上下関係を持ち、攻撃対象になる場合があります。臆病な性格さゆえに身の危険を感じると突発的に防御から攻撃へと転じる事がありますので、日頃から脅かさないように怖がらせないように気を付けてあげる必要などもあります」
――タヌキを含め、もともと野生だった動物を飼おうと思う人に考えてほしいことや心構えを教えてください。
「ただ可愛いからという理由だけで安易には飼わないであげてください。
野生動物は自然の中で生活するためにその種に適した環境を必要とします。野性動物を飼おうとする場合にはその動物が必要とする環境を正確に理解し、適切な飼育環境を提供することが出来るかが重要になってきます。
自然界とは異なる飼育環境の影響で動物の行動や生理的機能が変化することもありますので、ストレスを発散させてやれるだけの莫大な運動量が必要となりますし、その動物の習性をよく理解していなければ飼われる側も飼う側も事故や大怪我にもなりかねません。
野生種だから飼えなくなったら自然に帰すというような無責任な方もおられますが、残念ながら一度人に飼われ、人馴れしてしまった動物が野生に戻ることは厳しいものです。悲しい結末にならないためにも正しい知識と覚悟が必要です。なお、野生動物の飼育には法律や条例(※鳥獣保護管理法、各都道府県の条例)などに関しての知識も必要となりますのでご注意ください」
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時に間抜けで愛嬌あるイメージとは異なり、仲間同士の絆は深いけれど警戒心が強く、神経質で、身を守るためには攻撃的になるタヌキ。また、馴れても人間を主人とは認めず、じゃれついて噛む場合も犬の甘噛みのように優しくはないようで、とても一般家庭のペットに向いているようには思えません。充分な知識を持たず、環境づくりをせずに飼育すると、タヌキにとっても人にとっても不幸な結果となりそうです。奥平さんの言葉からは、本来は自然の中で暮らすタヌキの生態を知ろうともせず、安易に売ったり、飼育しようとしたりすることへの怒りや悲しみが感じられました。
「動物プロダクション・サイエンスファクトリー」は、動物保護活動に取り組み、動物福祉関連の活動・啓発グッズも販売しています。ツイッターやユーチューブではタヌキの日常をはじめ、さまざまな動物たちの情報を発信中です。
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