人口1000人足らずの米国アラバマ州ジェラルディーンという小さな町で暮らした、ひとりの男性の生きざまが、多くの人の心を動かしている。
今年1月1日に80歳で亡くなったホーディー・チャイルドレスさんの話である。
2010年のある日のこと。チャイルドレスさんは、町にあるジェラルディーン・ドラッグスで、薬剤師のウォーカーさんにこんなことを尋ねた。「薬の代金を払えない人っていますか」と。ウォーカーさんが「ええ、います」と答えたところ、チャイルドレスさんは、必ず匿名にすることを条件に「今度、払えない人がいたら使ってほしい。何か聞かれても、神の恵みだと言ってほしい」と100ドル(約1万3000円)を手渡したのだ。それから2022年秋まで、毎月、薬局をたずねては、匿名で100ドルを寄付してきた。
昨年末に体調を崩したチャイルドレスさんは、もう長く生きられないと悟り、はじめて、匿名で寄付をしていたことを娘のタニア・ニックスさんに明かした。そして、自分に代わって、薬局に100ドルを届けてくれるように頼んだ。
ニックスさんは、父の葬儀に集まった内輪の人たちに、生前、毎月、100ドルの寄付をしていたことを話した。それが、少しずつ広がって、町の人たちも、薬の支払いを助けてくれたのは、チャイルドレスさんだったことを知るようになった。ニューヨークタイムズ紙によると、薬の支払いを助けてもらった若者は、何も知らずにチャイルドレスさんの息子の農場で働いており、若者の母親は、偶然のつながりに涙ぐんだそうだ。
薬剤師のウォーカーさんは地元のテレビ局の取材に「彼は質素な人でした。毎月100ドルずつ寄付するのは、とても大変なことです。人を助けるということが、彼の心の中にあるのだと思いました」と答えている。そして、ウォーカーさんを信頼してくれたことにも感謝しているとした。
チャイルドレスさん自身もつらいことの多い人生を送ってきた。米空軍に入隊し、その後は農業や、民間会社で働いて生計を立てた。トルネードで息子の一人と父を亡くし、その後には、最初の妻を病気で亡くしている。
今、チャイルドレスさんの話を聞きつけて、遺志をついでいきたいと考える人が多く、薬局には人々からの寄付が集まっているそうだ。亡くなってからも、人を助け続けている。