原子を可視化する「走査トンネル顕微鏡」 世界シェアトップ企業のユニソク 国のグローバルニッチトップ企業100選にも選定

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

年々小型化していくテクノロジー商品。今やスマートフォンの重量は、200グラムを切ることが当たり前になってきています。でも思い出してください。携帯電話が最初に登場した約40年前は、こんなに軽くなるとは夢にも思わなかったはず。一般化した初代携帯電話は、なんと3キロもありましたから。これが200グラムを切るなんて、誰が思うでしょうか。日々開発研究が行われているたまものです。

世界中の最先端基礎科学を支える計測検査機器

研究といっても、私たち消費者にも分かりやすく商品化にもつながる「応用科学」だけが研究ではありません。応用科学の陰影には必ず「基礎科学」が存在します。基礎科学とは、物事の真理を追及し、全ての基準となるものを見つけ出すことを目的とする研究です。

そして、この基礎研究を支える計測機器の存在も忘れてはなりません。様々な実験を陰日向で支え、日進月歩の科学と共に発展し続けています。なんと、ものすごく低い温度で原子まで見られる顕微鏡、走査トンネル顕微鏡の開発販売している会社が、大阪府枚方市にあるのです。その名も株式会社ユニソク。

創業は1974年で、現在の社長で3代目。計測機器メーカーの中では老舗です。主な取引先は国内外の大学や研究機関のため、一般にはあまり知られることはありません。しかし、2014年に経済産業省の「グローバルニッチトップ企業100選」に選定されるなど、最先端基礎研究を陰から支えている会社なのです。

ユニソクが販売する走査トンネル顕微鏡は、世界で最も低い温度(-273.11℃、絶対零度は-273.15℃)で原子を観察でき、最近では世界的に競争が激化している量子コンピューターの研究にも用いられています。他にも様々な研究に使用され、なんと世界シェアはナンバー1!

原子を見ることで分かること

そもそも、原子とは物質を構成する小さな粒子をさします。プラスの電気の性質を持つ原子核と、マイナスの性質を持つ電子から出来ていることは高校の物理の授業で習いましたよね。全ての物質は無数の原子から構成されており、その性質は「電子の詰まり方」で決まります。

走査トンネル顕微鏡は、原子一つ一つの観察だけでなく、それらの電子の詰まり方も測ることが可能。例えば、試料の中で電流が流れやすい場所(金属)と流れにくい場所(絶縁体)があることを見つけることができるのです。

身近なところでは、ハードディスクが分かりやすいでしょう。ハードディスクには、データが磁気情報として記憶されています。このような磁気情報を、最小単位である電子のスピン(電子の自転による磁石の性質)まで観察することもできます。スピン間の相互作用も調べることが可能なので、磁気情報のやり取りが原理的にどこまで小さくできるかという実験もできます。

これらを観察するためには、外部からかき乱されない状態にしなくてはなりません。そのために、絶対零度(-273.15℃)に近い極低温まで下げる必要が出てきます。実は暖かいと熱の流れができてしまい、原子が動いてしまうのだそう。極低温になると全ての物が止まるため、物質本来の姿が見えるのです。

極低温にするため、今までは液体ヘリウムを使用してきましたが、ヘリウムが年々希少になり、かつ昨今の国際情勢や経済情勢の影響を受けヘリウムの値段が高騰。試行錯誤の末、現在は液体ヘリウムを用いずに極低温で測定できる走査トンネル顕微鏡を販売しています。

自動化がもたらす弊害

様々な自動化が進められている現在、今後は研究実験の自動化も進んでいきます。便利さを享受する一方で、日本人の理工系離れは深刻です。

文科省による「学校基本調査」によると、1997(平成9)年度には工学部の学生・大学院生は全体の19.5%いたにも関わらず、2017(平成29)年度には14.9%まで減少。国際教育到達度評価学会の調査でも、高い学力を持ちながら、理科を楽しいと感じる子どもの数が減少しているという報告もあります。

この現状に、株式会社ユニソク開発部部長の岩谷克也さんは、こう言います。

「自分の手を動かす経験が少なくなってきているのかなと感じます。私が学生のころは、実験装置が壊れると自分たちで直していました。気が付くと、当時直していた機器を開発・販売しているユニソクにいるのですから、人生は不思議なものです」

続けて、こうも言われました。

「世の中的には、AIなどで自動化することが求められているでしょう。しかし、誰かが装置の仕組みを分かっていないと、壊れた時に壊れたままになります。つまり、必ずしも全てを自動化することが良いわけではないと思います」

世界最先端の装置開発は「面白い!」

便利な科学を「魔法」にしてしまわないために、今からでも一人ひとりができることはないでしょうか。

「まず、自分の手を動かすことから始めてみてはいかがでしょうか。プログラミングでも良いですし。何かを始めることで、案外自分に合うものが見つかるかもしれません。私は大学4年生の時に、たまたま超伝導関係の研究室に配属されたことから、実験や装置開発が面白いことに気付きました。それまでの学生実験は家に早く帰りたいから、適当にやっていたのに、やってみたら案外合っていたんです」

岩谷さんの思う装置開発の魅力とは何なのでしょうか?

「世界最先端の計測装置を開発して、これまで見えなかったものが見えたり、予想だにしていなかった現象と出会えたりした時、大きな達成感を味わえます。世界中の研究者と一緒に、他にはない装置を開発するということにも、大きなやりがいを感じています。間接的にでも、最先端研究の発展に貢献できることが嬉しいです」

他にも、ユニソクの装置を使った実験の論文が、一流科学雑誌『Nature』や『Science』に掲載された時も、大きな喜びを感じられるのだそう。

見えないものを見えないままにせず、自ら見える装置を作る。これこそが、科学を楽しみ、計測技術を発展させていく原動力。この「面白い!」があるからこそ、有名な大学の研究室だけでなく、枚方市の小さな会社にも世界最先端研究は支えられているのでしょう。

見えない物を見るために

これから株式会社ユニソクは筑波大学との共同開発により、新しい走査トンネル顕微鏡を世に送り出します。その装置は原子が見えるだけでなく、電子の動きを1000億分の1秒の精度でとらえることができるのだそう。もしかすると、世界を揺るがす新発見もあるかも?

見えない物を見ようとする好奇心と探求心。これこそが、明日の科学を支えます。あなたも小さなものに目を向けてみませんか?

   ◇   ◇

【株式会社ユニソク】
大阪府枚方市春日野2丁目4-3
▽HP
https://www.unisoku.co.jp/
▽TSUKUBA JAOUNAL
時間分解走査トンネル顕微鏡の簡易化・安定化に成功~1000億分の1秒と10億分の1メートルの精度で電子の動きを測定する技術の普及に道を開く~
https://www.tsukuba.ac.jp/journal/technology-materials/20230125190000.html

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