「赤ちゃんゾウに会いに息子と行きましたが、前の方で踏み台に立っている方たちがいて、見られませんでした。柵の手すりに足を置いて写真を撮っている方もいて、すごく悲しい気持ちになり残念でした」
10月下旬、名古屋市の東山動植物園での出来事を嘆いたSNS上のつぶやきが注目を集めました。6月に生まれたアジアゾウのメスの赤ちゃんが母、姉と過ごし、屋外公開が短時間行われて人気なのですが、踏み台に乗った大人たちが真正面の観覧エリア前方を陣取り、シャッターチャンスを狙ってじっと待機。他の観覧者は前に出られず、譲り合う雰囲気もない状況だったというのです。
「『迷惑な撮り鉄』みたいなの、動物園にもいるんだ」
「なぜ最前列で踏み台?後ろならともかく…」
「自分も動物園で写真撮るけどこれはないわ」
「脚立とか三脚OKなの? せめて混雑時は遠慮を」
「バランス崩したら本人も周囲も危険では」
屋外公開時は、横や2階からも観覧できますが、正面エリアはベビーカーや車イスでも行きやすい場所。同園では当時、大型の脚立以外は禁止していなかったものの、「これは放置していいの?」と園の対応を求める声も多く上がりました。
「あれはないよ」周囲の声にも知らん顔
この光景をつぶやいたのは、年2回ほど同園を訪れているというモンさんです。
「カメラを構えていらっしゃる方は親切な常連さんという印象で、コアラがよく動く時間を教えていただいたこともあるのですが…」とモンさんは困惑しながら振り返ります。この日は踏み台の人たちは全く動かず、他の来園者たちは背伸びしたり、譲り合ったりしながらどうにか見ていたそうです。
「『あれはないよねぇ』とわざと聞こえるように言う人もいましたが、当人たちは知らん顔で。赤ちゃんを見るために並び、息子には『ゾウさんあそこにいるよ』と指さして教えましたが、遠かったので見えたかどうかは微妙で…。カメラの方たちがいた場所なら、息子でもよく見えるのに…と悲しかったです」
また、隣のブースのゾウが水浴びを始めると、踏み台や機材、三脚などを放置したまま移動してしまう様子も。「息子が触ってしまいそうだったのでその場から離れたのですが、置かれたままだとトラブルになりそうだなあと思いました」と振り返ります。
つぶやきが話題になって少し経ったころ、同園は使用可としていた脚立、踏み台を11月15日から禁止にすると発表。モンさんは「息子がやっと動物に反応して喜ぶようになってきたのに、このままでは行くことも少なくなっていたと思うので、安心しました。動物園は、大人から子どもまでみんなが楽しめる場所であってほしい。子どものころに両親によく連れてきてもらった思い出の場所に、今自分の息子と来ていることが感慨深くて、とても幸せに感じています。いつか息子も大きくなって、自分の大切な人と行きたいと思う場所であってほしいです」
また多くの反響の中には「手すりに子どもの足を靴のまま乗せる人がいる」という指摘も。「自分も気をつけなければ」と思い、あらためて観覧マナーについて考えるきっかけになったことも話してくれました。
動物園が脚立と踏み台の使用禁止を決めた理由
脚立と踏み台が使用禁止になった直後の平日、筆者は同園を訪ねました。踏み台を使っている人はもちろんゼロ。アジアゾウ親子の正面エリアでは「全く見えない」というストレスもなく快適…と言いたいところですが、やはり、ずっと同じ位置にとどまり、撮影を続ける人はいます。空いている時は問題なくても、遠足の子どもたちやベビーカー、車イスの方にとっては高く、動かない壁です。
脚立と踏み台をルールで使用禁止しても、観覧マナーの改善には結びつかないのでしょうか。
同園の管理課業務係長の小川夏季さんに話を聞くと、脚立、踏み台使用の様子が変わったのは、9月6日に赤ちゃんゾウの屋外公開が始まってからとのことだそう。展示場と観覧側の間には深いモート(堀)があり、ここに赤ちゃんゾウが落ちたりしたら大変です。そこで高さ130cmほどの柵を新たに設置したところ、写真に柵が写るのを避けるためか、踏み台を使う人が増えたといいます。
「『小さなお子さんが見られなくて困った』というご意見や、踏み台を使用する方と周囲のお客さまの安全を考慮し、使用禁止を決めました。観覧マナーに関するご意見は、特にアジアゾウ、コアラ舎で目立つように感じています」と小川さん。
使用禁止を発表後、知らずに持ち込もうとして入園ゲートで預かった例が数件あったものの、特に混乱はないとのこと。また、踏み台は休憩時にイスとして使用することもあるので持ち込み自体は禁止していません。
「当園が飼育している動物は450種に上り、日本一を誇ります。新しくトラ・オランウータン舎、ジャガー舎が来年完成予定です」と小川さん。「観覧マナーについて園内でいろいろな掲示でお願いしています。お客さま同士、譲り合って、楽しく観覧していただきたいと思います。長時間、同じ場所での観覧や撮影は止めていただくようお願いいたします」と呼び掛けています。