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これぞ「現代版からくり」…ユーモラスに動く、金属製の乗り物や生き物たち 不思議な「カラクリン」の世界

平藤 清刀 平藤 清刀

銅板・真鍮板・アルミ板・ワイヤーを切ったり曲げたり、ときには半田付けしてスチームパンク風の世界観を醸し出す作品。造形作家・井村隆さんが生み出した作品を総称して「カラクリン」と呼ぶ。最大の特徴は、小さなモーターを動力として、翼、プロペラ、人形が動く「生きた作品」であることだ。

モノが動く仕組みに強く惹かれて図工の延長で作品づくり

井村隆さんのことを「造形作家」と表現したが、ご本人曰く「作家になったつもりはないんです。強いていえば“おちゃら家(か)”ですな」と笑い飛ばす。

1945年6月に大阪府堺市で生まれた井村さんは、幼い頃から「動くもの」に強い関心を示す子供だった。あるとき、かき氷の露店で見たディスプレイ人形が強烈な印象に残っているという。

「頭から水を入れたら、左右の腕が動いてコンチキチンと鐘を鳴らすんです。きっと胴体に水車が入っていて、水を受けたら腕が動く仕組みになっていたのでしょう。いつまで見ていても飽きなかったんですよ。それから時計ね。とくに目覚まし時計。ブランドなんかどうでもいい。歯車どうしが噛み合って時を刻むメカニズムを見て、面白いなと思っていたんです」

高校を卒業した後、ディスプレイをつくる会社に就職した。あるとき、自転車メーカーが各社集まって開催する展示会のディスプレイを決めるにあたり、図面ではイメージが掴みづらいため、自転車の模型をつくって展示方法を検討することになった。

「針金で自転車の模型をつくっているうちに、そっちのほうが面白くなってきてね。展示会そっちのけで自転車の模型をつくってました」

また、会社員時代には、今の作品につながる原形のようなものを、業務とは別でつくっていたそうだ。

「お昼の休憩で、同僚たちはオフィスから出て休んだりお茶を飲んだりしますよね。僕は自分のデスクで、コツコツ作業していました」

アート作品をつくり始めたのは、おそらく30歳頃だと思われる。というのは、ご本人に「これが最初の作品だった」と意識しているものがない。1975年に大阪・心斎橋のギャラリーで展示した作品を、「あれが始まりだったかな……」と振り返る。だが残念なことに、当時の作品は残っていないそうだ。

作家になったつもりがないというのも「そもそもアート作品のつもりでつくっていない。図工の延長ですわ」という。今でも「遊んでいるんですよ。完成は目指さない。今つくっているものに飽きたら、別のものをつくりはじめる」といい、自宅にはつくりかけの作品が山のように積まれているそうだ。

「僕には集中力がないんですよ」という井村さん。それはデメリットではなく「いろいろなことを同時に進行できる」と、あくまで前向きにとらえている。

設計図は描かない……モーターをいじっているうちにイメージが広がる

井村さんが生み出す作品の特徴は、動きがあること。翼が上下に動く、プロペラが回転する、人形の足がペダルを漕ぐ、あるいは工場でハンマーを振り下ろすなど、あえてゆっくり動かすことで、見る人の意識を作品の世界に引き込むのだ。さぞかし緻密な設計をするものと思ったら、それは違うという。

「スケッチは描きますけど、設計図は描かない。設計図が描けるのは、頭の中に完成形があるということ。それはもう頭の中で作品が完成しているに等しいから、わざわざ形にする必要がない」

つまりイメージが固まってからつくり始めるのではなく、つくりながらイメージが膨らんでいくのだ。作品に動きをつけるメカニズムも同様で、つくりながら考えるそうだ。

「モーターを手に取って、指先でいじっているうちに見えてくるものがあります。つくりながら仕掛けを考えて、動きを微調整しながらつくる」

1988年に出版した書籍「からくり機巧輪(からくりん)」のタイトルから、井村さんの作品を総称して「カラクリン」と呼ばれるようになった。また、カラクリンに乗っている魚の頭をもつ人型のキャラクターは「ボンフリ(Bone Free)」といい、自由な意識を象徴しているそうだ。

「魚は水の中を自由に泳ぎ回っていますけど、本当は自由じゃない。自由そうに見えるだけ。人間も同じで、本当の自由って頭の中の想像だけですよ。いろいろなしがらみで、がんじがらめになって生きています。頭の中で想像するのは自由です。そんな発想から、ボンフリが生まれたのです」

井村さんの作品に魚をかたどったものが多いのは、自由への憧れを象徴しているからかもしれない。

今後の予定は何も決まっていないそうだが、独特の世界観を醸し出す作品を、これからも期待したい。

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