タクシー大手、エムケイ(京都市南区)が、電気自動車(EV)の導入を加速している。業界で先駆けて2030年までに全車両をEVに置き換えると宣言し、7月には韓国自動車大手、現代自動車(ヒョンデ)の新型EVを一挙に50台導入すると発表した。EV化を急ぐ理由は何なのか。
エムケイは、現代自動車が日本で発売したスポーツタイプ多目的車(SUV)のEV「IONIQ5(アイオニックファイブ)」を8月からタクシーとして稼働させた。今後は毎月10台程度ずつ増やし、来年3月までに計50台を運用する。大量導入の決め手は、後部座席の広さなど「車内空間の快適さ」だった。
どんな車両なのか試乗した。SUVとあって車高は高く、後部座席も思ったより広い。エンジン車両特有の音や振動はなく、走行中は静かだ。「音がしないので、お客さんの声がすごく聞き取りやすいです」。ドライバーの男性はこう話した。
同社は京都の営業エリアですでに日産自動車のEV「リーフ」18台を配備している。30年の全車両EV化に向け、25年には京都で保有する全738台のうち3割をEV化するのが目標という。
実はアイオニック5より先に導入を計画していたのが、日産が今春発売したSUVの新型EV「アリア」だった。日米欧の主要市場に向け、日産が満を持して投入したアリアだが、世界的な半導体不足と物流の混乱の影響で今年7月から受注を停止した。車両の調達が見通せなくなったため、先に納車されたアイオニック5の運用を始めたという。
エムケイはほかにも、海外メーカーのEV導入を計画する。22年末から23年にかけてドイツの自動車大手BMWの新型EV「i7」を京都で10台、SUVの「iX」を5台それぞれ導入する予定という。ともに新車販売価格は1000万円を超す高級車で、全国のタクシー会社の中でも異例の導入規模となる。
「EV化は必然の流れ。欧米ではガソリン車やハイブリッド車(HV)が販売できなくなる地域もある。将来を考えればEVを先取りして悪いことはない」。エムケイの青木信明社長はこう述べた。EVシフトへの対応以上に、コスト面でも魅力があるという。「EVの車両価格は従来より4割上がるが、燃料費は5分の1になる。5年稼働させた時のトータルコストは、既存の車両より2~3割低い」。EV化を急ぐのは収益にもメリットがあると考えるからだ。
インフラとなる急速充電設備の設置も同時に進める。大出力の180キロワット充電器を10月中に本社に2基設け、23年1月までに京都市内の3営業所にもさらに計9基整備する。30分の充電で200~250キロ程度を走行できるようになるといい、23年3月までに京都で200台以上のEVを充電できる体制をつくる。
青木社長は、EVを含め高級車のハイヤーを京都で増やす考えも明らかにした。京都市内で「ラグジュアリー(豪華)ホテル」が増加しているのが理由という。「今後は宿泊客の送迎需要が伸びる」とし、独メルセデス・ベンツグループや英ベントレーのハイヤーを新たに導入する方針だ。