熊本県・秀岳館高校の男子サッカー部寮内で、入学前から練習に参加していた中学3年(当時)の男子生徒が3月に上級生から暴行を受け、4月になって入学辞退に追い込まれたが、この生徒が1か月以上を経た現在も別の高校に進学できていないことが分かった。「夜回り先生」こと教育家の水谷修氏は「学校の在籍に関する法令」を元に、この処遇の問題点を指摘した。
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サッカー部コーチによる部員への暴行の映像がネットに流れ、問題となっている秀岳館高校のサッカー部寮内で、3月に入学前から練習に参加していた推薦入学した県外出身の中学3年生が、上級生から暴行を受け、入学式前の4月4日に入学辞退に追い込まれ、別の高校にも進学できず、自宅で苦しんでいることが報道されました。所轄の熊本県の私学振興課は、高校に入学していない以上、他校への転学はできず、法令上、県として何ができるかわからないと言っています。
私は、ずっと高等学校の教員でした。この事態は、法律上認められない異常なことです。小中学校はもとより、高校や大学も、在籍期間は、4月1日が始まりで3月31日までです。卒業式や入学式は、単なる式典であり、その日が、在籍期間の終わりや始まりとなるわけではありません。
たとえば、中学の卒業式後の3月末に何らかの事件を起こした場合は、中学生として扱われ、その内容によっては、高校の入学を取り消されます。ですから、中学の生徒指導担当の教員は、卒業生たちに、3月31日までは、君たちは、この中学の生徒であり、何らかの問題や事件を起こした場合は、高校の入学が取り消されるときちんと指導します。また、4月の入学式前に高校の新入生が事件を起こした場合も、その生徒は、入学した高校の生徒として扱われます。
このように法的に決まっている以上、この生徒は、入学辞退届を提出させられた4月4日には、すでに秀岳館高校の生徒として入学し、在籍していることとなり、入学辞退はできず、中途退学となるべきです。そうなれば、いったん高校入学していますが、他の高校への転校が可能になります。
ぜひ、秀岳館高校も熊本県も、きちんと学校の在籍に関する法令を読み直していただきたい。そうすれば、多少ですが、この生徒は救われます。
いずれにしても、秀岳館高校のこのところの様々な報道には、心が痛みます。この高校は、生徒をきちんと育てる気があるのか、守る気があるのか。私には、疑問です。学校において、最も大切なのは、その学校が何かで有名になることではなく、お預かりした生徒たちが、日々明日を夢見て、生き生きと学び、たくさんの幸せな思い出を胸に巣立っていくことではないでしょうか。この教育の原点が、この高校には欠けているように見えます。
ぜひ、秀岳館高校の心ある教員は、速やかにこのような体制を変革して欲しいと望みます。