結婚58年、79歳妻から88歳夫へ初めてのバレンタイン・チョコレート そのお返しも粋過ぎる「2人で眺めて食事しよう」

広畑 千春 広畑 千春

 「結婚して58年、今年初めて主人にバレンタイデーのチョコをあげました」―。こんな投稿が、神戸新聞の夕刊で半世紀以上続く読者の声欄「イイミミ」に寄せられました。神戸市須磨区にお住まいで、ご主人は88歳、奥様は79歳とのこと。いったいどんなご夫婦?と、ご本人たちに取材しました。

 お二人のなれ初めは、奥様が働く職場に、ご主人が転勤で来られたこと。昭和30年代「もう大昔のことだからほとんど覚えてないけれど…女性ばかりの職場だったから『今度、東京から独身の男の人が来るんだって!』『えー、ほんと!?』とキャーキャー騒いでね」と奥様。

 そんな王子の心をつかんだのは、9歳年下の奥様。「どこに惚れた?一目ぼれ?そんなこともう忘れてしまいましたわ。でも、僕の方からアプローチしました。それだけは間違いありません」と、ご主人はちょっと照れくさそうに話します。

 結婚し、家を構え、2人の子どもにも恵まれましたが、脱サラして会社を立ち上げたご主人は仕事一筋。取引先などの付き合いもあり、神戸・三宮に飲みに行ったり、スナックで歌ったり大忙しだったそう。バレンタインも、「いつもお店にいらっしゃるキレイな女性たちから、たくさんチョコをもらって帰って来ますでしょ。だから、まあ、私は(あげなくても)いっかー、って。誰にもあげたことがないし、他人事かな」(奥様)と思ってきたといいます。

 仕事の一線を引いてからも、社交的なご主人は友人たちと飲むことが多かったそうですが、一昨年来のコロナ禍で状況は激変。お店は閉まり、感染不安で外出を避ける高齢者も多い中、家で過ごすことが増えました。

 そんな中、買い物中の奥様の目に飛び込んできたのは、かわいく包装されたチョコレートの数々。「ずっと眺めるだけだったけれど、今年は外にも行けなくなって、何だかかわいそうになって…」と一つ購入し、翌朝、ご主人に手渡しました。その後、いつものように奥様はかかりつけのお医者さんへ、ご主人は買い物へ。そして家に帰ると、リビングの机の上にお花のアレンジメントが置いてありました。

 赤やピンクの華やかな色合い。「どなたからだろう?」と思っていたら、2階から下りてきたご主人が「僕からあなたに」と告げてくれたそうです。リビングは暖かいから、花が長持ちするよう玄関に置こうと奥様が言うと、ご主人は首を振って言いました。

 「2人で食事するとき、眺めて食べよう」

 昭和の男で、趣味で調理師免許は取ったのに家事は一切できず、お茶も入れられないというご主人。「もう子どもか大人か分かんないけど手はかかるの!若いころはずっとケンカばっかり。でも、この頃はケンカも疲れてきたわね(笑)」(奥様談)といいますが、奥様の通うジャズ教室にご主人も一緒に通うなど、ちょっと有名なおしどり夫婦。ご主人はサプライズのチョコレートに「びっくりした」といい、「何かお返ししないと」と思って真っ先に浮かんだのが、奥様が家中に飾るほど大好きな花でした。

 夫婦円満の秘訣を「趣味が合うのが一番かもしれないですね」と話すご主人。「年を取ると、奥さんの存在がどんどん大切になってくる。奥さんは9つ下だけど、もっと離れていてくれていても良かったと思うぐらい、ずっと元気でいて欲しい。もう自分の命より大事ですわ」

 そんなお二人の食卓を彩る、赤とピンクのアレンジメント。

 ちなみに、奥様が語る夫婦円満の秘訣は「放し飼い」だそうです。…深い!

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神戸新聞イイミミ https://www.kobe-np.co.jp/column/iimimi/

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