2013年の初夏、兵庫県宝塚市在住のMさんご家族は1匹の子猫に出会う。当時小学6年生だった息子が遊びに出かけたと思ったら、何かを大事そうに抱えながら小走りで帰ってくるのが見えた。
「お母さーん!猫ー!」と、袋の中を見せてきた。その猫はまだ目も開いておらず、手のひらにのるほど小さかった。
「え!?この子、どしたん?」とMさんは息子に聞くと、ことの経緯を得意げに語り出したそうだ。遊びに出かけた際、草が生い茂っている空き地に通りがかったところ、クラスメートの女の子たちが何かを囲んでたむろっていた。
「何してんのー?」と、声を掛けると、女の子たちは袋に入れられて鳴いていた1匹の子猫を見つけ困っていた。1人が保護しようとしたが、母親に反対されて家に連れて帰ることができずにいたそうだ。
「この子を助けて!」というクラスメートのSOSに、動物好きの息子は「俺に任せろ!」と快諾。連れて帰ることを決めたそうだ。そのときMさんは「捨てられてしまったのか?」それとも「野良猫でたまたま袋に入ってしまったのでは?」と考えた。ともかく、子猫を荒れ放題の空き地に戻してしまうと生きていけないと思ったため、このまま面倒をみようと決意した。
しかし、猫を飼ったことがなかったMさん。とりあえず近隣の動物病院に子猫を連れて行った。この段階ではMさんはこの子猫を飼うことは決めておらず、いずれ里親を探すつもりでいたそうだ。獣医にもそのことを伝え、基本的な検査をしてもらった。体をキレイに洗ってもらい、お試し用のミルクと小さい哺乳瓶をもらい、帰路に就いた。
家に帰る途中、図書館に寄り「猫の育て方」という本を借りた。帰宅後、早速ミルクを子猫に飲ませた。そして、以前ハムスターを飼っていた時に使っていたキャリーケースにタオルを敷き詰めて寝かせた。
「ちゃんと息しているかな-」と心配になって、Mさん親子は何度もケースを覗き込んだ。体をキレイにしてもらい、ミルクでお腹もいっぱいになり、ふわふわのベッドに眠る子猫に耳を傾けると、小さな小さな寝息の間に、母親を求めて鳴く声がかすかに聞こえてきたそうだ。
Mさんはその姿がとても「温かくて切なく」感じた。夜中には何度も起きてミルクを飲ませた。「この子のお母さんもきっとこの子を探しているのではないだろうか…」。そう思いながら子猫を見守った。
翌日は寝不足だったが、里親になってくれる友達がいないか聞くよう息子に頼んだ。また、Mさん自身も近所の方に飼ってくれる人がいないか聞いてまわったそうだ。
しかし、この日の夜にMさんは大変なことに気づく。それは「保護してまる1日経ったにもかかわらず、子猫が排泄をしていない」ことだった。子猫だからミルクを飲む量は少なかったが「いくらなんでもおかしくないか!?」と、Mさんは慌てて図書館で借りてきた本を読んだ。
そこでやっと、子猫には排泄補助が必要であることを知ったそうだ。急いで本で読んだ通りにトントンと刺激すると、事なきを得た。危うく病気にさせるところだったため、Mさんは「危ない危ない」と思いつつ安堵した。
夜中の授乳や排泄補助も板に付いてきたが、里親希望者は皆無のまま数日が過ぎた。気がつくと子猫の目はうっすら開いていた。息子にも手伝ってもらい子猫の育児は順調だった。「あとは里親さえ見つかれば」。
しかし、日が経つにつれてMさんの心は沈んでいった。数日間、子猫と暮らし世話をしている内に、子猫に対して情が移ったそうだ。そこでMさんは家族に宣言した。
「この子、猫をウチの子にします!」
旦那さんと息子は「そう言うと思った」「何をいまさら」と飼うことを予想していたそうだ。息子に「ココ」という名前をつけてもらい、子猫は晴れてMさん家族の一員となった。Mさんは「ココを産んでくれたお母さん、あなたの娘さんを私に育てさせてください。絶対に幸せにします」と、結婚の挨拶さながら会ったことのないお母さん猫に心の中で伝えたそうだ。
ココはすくすくと育っていった。ハイハイを始めたココ、トイレを1回でマスターしたココ、小さすぎてケージの隙間から出てくるココ、避妊手術をしてエリザベスカラーをつけたココ。様々なココがMさん家族の歴史に刻まれていった。
そして、現在9歳となったココは元気に暮らしている。一度は膀胱炎になったが、それ以外は健康そのもの。Mさんが甘やかしているためなのか、すっかりワガママ娘に育ってしまったようだ。
猫を家族に迎えるのは特別なことじゃない
「困っている猫を保護することは、少なくとも私にとっては自然なことでした。もしも、あの時ココがウチに来ていなかったら、ココはどうなっていたでしょう。そのまま空き地で衰弱して死んでいたか、外敵に食べられたり、車にはねられていたかもしれません。そんな事を想像するとゾッとします。けれど、そうやって死んでしまう猫もたくさんいます。
猫を飼った事がなくても、獣医さんや保護団体に相談して、いろいろ教えてもらったり、飼育本を読んでみる。あとは、近所の方や友達に聞いたり、色々な人に助けてもらいながら、案外なんとかなるものです。だから気負わず保護猫を家族に迎える人が増えたらいいなと思います。猫も家族として尊重されるべき存在なのですから。もちろん、家族に迎えるなら最期の時まで責任を持つことが大前提ですが」
Mさんは猫を家族に迎えることは特別なことではなく、難しく考えすぎないことも大切だと語る。きょうもまたMさん家族の歴史に、ココとの幸せな日々が刻まれているのは言うまでもない。