京都府の山あいで暮らす旭さん夫妻。たまたま飼ったペットがボーダーコリーでした。とても賢く、ボールやフリスビーをキャッチする腕前は超一流。ところが、原産国イギリスの本には「ボーダーコリーは牧羊犬。羊を追うのが仕事」と記されているではありませんか。悩み抜いた旭さん、何と5頭の羊と1ヘクタールの広大な牧場を愛犬にプレゼントしてしまったのです。
人と動物が一緒にくつろぐ空間「みわファーム」
京都府福知山市三和町にある「みわファーム」のオーナーは旭弘子さんと夫の敏之さん。敏之さんの転勤で東京から大阪に引っ越し、その後、大阪から京都府へ移住したそうです。
大阪にいたころは週末ごとに各地に遠出し、ときに愛犬のリン(メス)を連れ、フリスビー大会に出場していました。ボーダーコリーは運動量が豊富。しかも、リンちゃんはめきめきと腕を上げ、上手にディスクキャッチができるようなります。一方で、旭さん夫妻もフリスビー競技にハマり、大会運営スタッフの手伝いを志願するほどの熱の入れよう。海外で書かれたボーダーコリーの文献にも目を通すようになります。
ところが、原産国イギリスの本にフリスビーの話題は、ほとんどと言っていいほどありません。「ボーダーコリーは牧羊犬、羊を追う農家の犬」と書かれているだけ。そこで好奇心旺盛な弘子さんは「イギリスと日本。同じ犬なのに、この食い違いは何なんだ?と思って、実際にイギリスまで確かめに行ったんです」と調査に出掛けました。
現地で見たのは、無心に羊の群れを追うボーダーコリーの姿でした。以来、弘子さんは、牧羊犬にとっての幸せな生き方は何なのかを考えはじめ、ついに決断します。今から17年前、京都府山中の荒れ果てた耕作放棄地を夫妻で開墾。牧場づくりに取り組み、完成したのが、この「みわファーム」です。そこから愛犬の日課は一変。フリスビーをキャッチすることから5頭の羊を追う生活に変わりました。
疲れた人と犬の癒やしの避難場所「みわファーム」
「みわファーム」の朝は午前8時にスタート。朝夕2回、旭さんらをサポートして羊を誘導するのがボーダーコリーの仕事です。そんな中、噂を聞きつけ、各地からボーダーコリーの飼い主たちが、自分の愛犬にも羊を追わせてあげたいと「みわファーム」を訪れるようになりました。
やがて羊の毛刈り体験も恒例のイベントになっていきました。わずか3頭の犬と5頭の羊からスタートした牧場は、いまでは8頭の犬、羊は23頭、山羊2頭、ニワトリが3羽、コールダック5羽、フランスカモ1羽の大所帯となりました。
「アジールという言葉がありますが、それは逃れの地とか、避難場所という意味。ここがそんなふうになればいいと思います」と敏之さんは話し、こう続けます。
「以前、ぼくたちもフリスビーに夢中になったし、犬も一生懸命に駆け回り、犬とのコミュニケーションとしてはすばらしいものがありました。ただ、いまは道具を介さない関係の方が、犬は幸せなんじゃないかなって気がします」
大自然の中、犬が人を信頼して流れていく日々
いまの心境をを尋ねると、犬と人がお互いに干渉しないで過ごす時間を持つことが大切だとしんみりと語った敏之さん。「最近、犬に信頼されてきたかなと感じることがあるんです。相手を立てるみたいなね。飼い主の言うことをおとなしく聞くのが良い犬だと思いがちですが、それは犬が人間に働きかけることを諦めてしまっているような気がします」
人と動物のあるべき関係を求める「みわファーム」。羊飼いとして、羊毛を刈り取り、羊毛商品を手作りしながら愛犬や多くの動物たちと生きる旭夫妻。春にはまた新しい命が芽生え、18年目の歴史が刻まれます。
◇みわファーム
〒620-1441 京都府福知山市三和町梅原19
090-9542-9890(10:00~16:00)
https://www.facebook.com/miwafarm.jp/
*訪問の際には事前予約と、牧場維持協力金300円が必要です。