一軒家の庭の茂みに隠れた3匹の子猫…深夜に及ぶ捕獲の末、いまはそれぞれの家族と団らんの日々

木村 遼 木村 遼

 昨年11月上旬のある朝、1本の連絡が入った。兵庫県宝塚市のある地域で、猫の親子が自宅の敷地に現れたという。詳しく聞くと、その方の自宅は一軒家。裏の敷地に猫が4匹おり、保護してほしいという内容だった。

 ちょうど、そのときは当団体の保護スペースには空きがあった。相談者と話し合い、母猫はTNR(T=TRAP「つかまえる」N=NEUTER「不妊手術する」R=RETURN「元の場所に戻す」)することに。しかし、少し前まではよく見掛けた子猫3匹はその後は現れなくなったという。子猫を見かけたら連絡をもらうように伝えた。

 すると数時間後、相談者から「ちょうど今、子猫が現れました!」と連絡が入り、すぐに現場へ向かった。現場に到着すると、相談者の女性とその娘さんが待っていた。子猫3匹は、相談者の家とお隣さんの家の間にあるフェンスの辺りにいるようだ。案内されて状況確認をすると、そこのフェンスの周りは少し茂みになっており、子猫の隠れ場には絶好の場所だ。

 時刻は夕方16時頃。秋の日はつるべ落としという。暗くなると周りが見辛くなるため、日が暮れる前に何とか保護したい。はじめに捕獲器を使って捕獲を試みたが、まったく近づく様子はない。そこで今度は網を使った。相談者の親子にも協力してもらい、フェンスから逃げ道となる通路を塞ぎ、子猫の捕獲を試みた。

 しかし、子猫はとてもすばしっこく、1匹は足元をするりと抜けて走り、通路にあったエアコンの室外機の下にもぐり込んだ。子猫が室外機から飛び出ないように1人が網で出口を塞ぎ、もう1人が反対側から手を伸ばして無事保護することができた。

 まだ生後2カ月ほどの白黒柄をした子猫で、もふもふした毛にくるまれた体がとてもかわいらしい。子猫を見た相談者の娘さんは、あまりの可愛さに「やばい!かわいい!」と何度も声をあげていた。すると相談者の女性が「自宅に迎えてもいいですか?」と言った。相談者は既に先住猫がいたが、子猫たちを迎えることを考えていたのだ。

 「もちろんいいですよ」と答えると、親子からマスク越しでも分かるほどの笑みがこぼれた。残された2匹を捕獲するためフェンスの方に向かうと、子猫は茂みの中を右往左往してなかなか出てこない。茂みに接近すると、黒色の子猫が飛び出してきた。子猫は勢いよく走り去ろうとしたが、相談者が抜け道を塞いでくれており、そのまま無事保護することができた。

 子猫は残り1匹となったが、どうやら茂みから逃げてしまったようだ。子猫が逃げ隠れできそうな場所を手分けして探したが、見当たらない。その後もしばらく探したが、姿を見せず、とうとう日も落ちてきた。

 子猫がまた戻ってくるのを待つため、一度現場から離れることにした。すると数時間後に「子猫が戻ってきた」と連絡が入った。すぐに現場へ戻ったが、子猫は私達に気付くとフェンスを乗り越え、お隣さんの家から逃げて行った。

 お隣さんも子猫のことを気にかけてくれており、ご主人は「何時でも自由に敷地に入ってくれて大丈夫なんで」と快く協力してくれた。数時間が経った深夜、相談者から「子猫がフェンスの所に戻ってきました」と連絡が入った。再び現場へ戻り、逃げ道となるお隣さんの敷地を塞ぎ、子猫の捕獲を試みた。人の気配を感じた子猫は自宅の表道に向かって走り出し、そのまま道を渡って向かいの家に逃げ込んだ。

 想定外の出来事に、懐中電灯を片手に子猫を追いかけながら「これは難しいな…」と正直気持ちに焦りが出た。しかし、向かいの家の玄関辺りに灯りを照らすと、子猫が玄関の入口から移動することもなく、じっとこちらを見ている。その姿を見て、そのまま手で捕まえられそうな気がした。

 そっと手を伸ばすと、子猫ははじめ少し踏ん張って抵抗をしたものの、あっさりと保護することができた。子猫は茶トラ柄で目がクリクリしたかわいい子だ。焦っていた私に気を使って保護させてくれたのだろうと、勝手に感謝をした。

 無事に子猫の保護ができ、母猫はTNRをした。子猫は最後に保護した茶トラ柄が雄で、残りの2匹は雌。当初、子猫は依頼者の家族に迎えられたが、依頼者の知り合い2人から子猫を譲って欲しいといわれた。兄妹を離してしまうことに葛藤があったものの、依頼者の家には既に先住猫がいるため、頭数が多いと1匹ずつに対する細かなケアの心配もあり、譲渡することを決めたという。

 最初に捕まえた白黒柄の子猫を自宅に迎え、黒柄と茶トラ柄の2匹はそれぞれ新しい家族に迎えられた。白黒柄はユキ、茶トラ柄はカイ、黒柄はワラビと名付けられた。3匹はいま、優しい家族と新たな年を迎え、幸せに暮らしている。

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース