巨大マリトッツォの中はレーザーきらきら…クラブ並みのイケイケ空間!?競輪場のイメージを刷新した千葉・JPFドーム

二階 さちえ 二階 さちえ

 千葉市の『JPFドーム』が競輪場のイメージをひっくり返しそうだ。公営競技いわゆる“ギャンブルとしての競輪”、国際的なスポーツとしての“自転車競技KEIRIN”、さらにコンサートや各種イベントまで多目的に運用できるドームとして、旧千葉競輪場跡地に新たに建ちあがった。

 2013年から競輪場をマネジメントしてきた(株)JPFが、所有者である千葉市から土地を定借して建物を建設・所有。競輪開催時は千葉市に施設を貸す形で共同管理・運営する。

 巨大マリトッツォを思わせる建物の内部に一周250mの木製トラックが広がる。オリンピックにも使える国際基準で設計した本格派で、国内ではここと伊豆にしかない。世界選手権クラスの自転車大会誘致も視野に入れており、従来の競輪場とは生まれた時から別物なのだ。

 そもそも競輪とKEIRINではルールが違う。前者は数人ずつチームを組んで9台で走り、後者は個人単位で2台あるいは4台で走る。トラックの素材や一周の距離も異なる。

 JPFドームのトラックはKEIRIN基準で、開催されるのはこれに合わせた『250(にーごーまる)競走』という世界初のレースだ。新たなファン獲得をめざし一大転換をはかった、ギャンブルとスポーツが融合する新しい競輪である。

 250競走はKEIRIN同様の個人レースで、計6台で走る。競輪初心者には難しかったチーム戦の駆け引き要素をなくして個々の実力そのものを見えやすくし、車体やユニフォームのデザインも一新・洗練させた。出走時はコンサートばりの音響やレーザー照明、炎やスモークといった特効が披露され、プロダンスチームも登場して華やかに場内を盛り上げる。

 11月に行われたメディア向け内覧会でも正規のレースが開催され、光と音とスピード感を生かしたエンタテインメント性に目を見張った。初めての観戦なのに楽しいのだ。

 千葉競輪は戦後すぐの1949年から70年以上続く千葉市の公営競技だ。しかし近年人気は落ち込み、競輪場自体の存続が危ぶまれた時期もある。

 250競走はそんな中で挑んだ起死回生の一撃だった。2021年10月『PIST6 Championship』の愛称で開幕したトーナメント戦は、年間1200レースが予定される。競輪人気復活のほか、将来的にはオリンピックをはじめ国際的な自転車競技で戦える選手もここから出していきたい思惑もある。ルールもトラックもKEIRINに近いため“二刀流”が可能なのだ。ギャンブルとスポーツの境目はさらに薄れていく。

 その舞台とあって、JPFドームには往年の競輪ファンが金網越しに怒号を上げつつ? 戦況を見守るというマニアックな雰囲気がない。家族やカップル、友達同士で気軽にレース観戦や飲食ができるスタジアムやアミューズメント施設に近い。

 場内に車券売場はなく、購入はすべてインターネット経由。入場券だけを買い、純粋なスポーツエンターテインメントとして気楽に観戦できる。

 一般観覧席以外に、トラック内側のアリーナにはソファ席も用意された。ピザやホットドッグ、スイーツを供する店やトラックを見下ろしながら飲めるバーなどフードサービス面にも力を入れる。メインエントランス脇のグッズショップではTシャツやファッショナブルな小物類が並び、前回オリンピックで実走した自転車が飾られていた。

 休日に家族で遊びに来たり、デートにも使ってほしい。運営側のそんな思いがにじむようだ。千葉市経済農政局経済部公営事業事務所の担当者は「ギャンブル性を薄くし、さまざまな人がスポーツ観戦や飲食を目的に来やすい施設にした。旧来の競輪場のイメージ刷新がはかれたと思う」。

 施設を所有し企画や運営を担う(株)JPFには、250競走以外の利用計画についても聞いた。「ライブコンサートのほかにプロジェクションマッピング、トラックを使ったドローンレースなどもできたらと考えている」。オープンエアの大規模スタジアムと違い、小ぶりで閉じた空間にトラックがある特性を強みとしてとらえているのがうかがえる。 

 近年、新たに計画されるアリーナやスタジアム建築にスポーツ以外の用途を織り込むのはもはや常識だ。JPFドームでは250競走用に完備・常設した照明・音響設備をそのまま使えるのも有利な点となる。

 今後は市民からより愛される存在になっていくことも重要だろう。

 千葉市はかねてから『自転車を活用したまちづくり』をうたい、ドームを自転車スポーツの拠点としても位置づける。今は複数の大学の自転車競技部がトラックで練習し、整備管理にも関わっている。

 一般の自転車愛好者がトラックを走るのは安全面で難しいというが、JPFではドームを拠点に、国際大会をめざす若い自転車選手を育成するアカデミーを創設する計画もあるといい「いつか千葉市からオリンピック選手を出したい」と意気込む。“自転車のまち千葉”の新たな看板になるかもしれない。

 ドームは千葉公園に隣接してもいる。駅から歩ける距離に豊かな緑や遊歩道、ボート池、プールや野球場まであり、四季を通じて多くの市民が訪れる総合公園だ。千葉市は2021年に市制百周年を迎え、記念事業のひとつとしてこの公園のリニューアルを進めている。市立体育館は現在建て替え中だし、新たな賑わいを創出する整備計画に参画する民間事業者の公募も実施した。

 旧競輪場の解体およびドーム新設もこの事業の一部に名を連ねる。JPFの担当者いわく「千葉市とやりとりしながら、公園全体でいいものをつくっていきたい」。ドームの根っこにはまちづくりの視点もあるのだ。

 長い間「怖い、近寄りづらい、マニアックな」場所だった“ギャンブル施設”が、公園に遊びにきた家族連れやカップルが自転車レースを眺めて気軽に過ごせる“エンタテインメント基地”に生まれ変わろうとしている。いつか世界的な選手を生み出し、自転車の聖地となるかもしれない。巨大マリトッツォのこれからに注目したい。

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