会社に居着いた母猫と2匹の子猫を保護、海中心の生活から一変した女性サーファー 「今では猫を溺愛する毎日です」

佐藤 利幸 佐藤 利幸

千葉県在住のくるろんさんはかつては都内でOLとして働いていた。サーフィン好きが高じて、海にほど近い田舎暮らしをするため移住、転職した。念願かなって、出勤前の日の出ともに海に入り、波に乗る毎日を過ごしていた。そんな「海中心」の生活ががらりと変わったのは3年前のある出会い。

2018年11月15日、同僚から会社の広大な敷地内の一角で母猫と2匹の子猫がいると聞いた。くるりんさんも見に行ってみると、2匹の子猫は人懐っこく、足元にやってきて体をこすりつけてくる。そんな子猫を母猫も遠くで見守っていた。猫を飼った経験はなかったが、子猫たちは風邪をひいていることがわかった。目ヤニがひどく、鼻づまりもあった。

くるろんさんは婦人科系の病気のため入院することになっていた。退院して再び出勤するまで2週間ほどかかった。あの猫たちはどうしているんだろう。そんなことを考えながら会社に向かった。季節は秋から冬に、寒さは増していた。そして猫たちと再会すると、子猫たちの猫風邪はひどくなっていた。

仕事を終えるとすぐに動物病院へ子猫たちを連れて行った。やはり猫風邪と診断され、治療を受けた。このまま外で生活させるわけにはいかないと思ったくるろんさんは「里親募集」のメッセージを診察してもらった動物病院や近所のスーパーに張らせてもらった。そして“里親”探しを始めたのだが…。しかし、そう簡単に“里親”は見つからない。年が明けた2019年1月半ば、ある決断を下した。

「自分で飼おう」。ペット不可の賃貸マンションに住んでいるくるろんさんは大家さんに意を決して事情を話し、お願いをした。「1匹だけなら」と了承された。「無理ならすぐ引っ越し先を探そうと思っていたのですが、恐る恐る聞いてみたら、あっさり二つ返事で『いいですよ〜』と。拍子抜けしました。しかも、保護してくれてありがとうね、とまで。実は本当は大家さんも猫好きさんだったのかもしれません(笑)。一応、敷金を2か月分お支払いしましたが、本当にありがたかったです」と振り返る。

“里親”が見つかるまでという条件で、当面は2匹飼うことも許してもらった。オスの子猫を「まめ」、メスの子猫を「くるみ」と名付けた。

一方、母猫のことも気になっていた。病院に連れて行き、避妊手術を受けさせた。「本当は一緒に飼ってあげたいが…」と後ろ髪をひかれるような気持ちだったが、元にいた会社の敷地内に戻した。

2月になって、まめを引き取りたいという家族が現れた。猫好きの優しい家族だった。まめとくるみの2匹を車に乗せて、“里親”先に行った。「これでまめとお別れだよ」そうくるみに言い聞かせて、まめを残して帰った。普段、車に乗せても大人しいはずのくるみが、帰りの車中でずっと鳴いていた。まめを探していたのかもしれない。

くるろんさんによると、それ以来、「クルマ=お別れ」とトラウマになっているようで、くるみを車に乗せるといつも「ニャーニャー」鳴くという。今でも「申し訳ない気持ちでいっぱいです。2匹を離れ離れにしたこと、(当時は)猫の事をよく分からないまま一緒に見送りに連れていってしまったこと」と後悔の念もある。

それから7カ月が経った9月、千葉県内を襲った台風15号。くるろんさんは気が気でなかった。あの母猫は大丈夫だろうか。会社に行くと、あちこちで木が倒れていた。母猫の無事を確認し、ほっとしたという。1カ月後、大きな台風19号がくると分かり、「もう15号の時の怖い思いはさせたくない」と再び大家さんの元を訪れ了解をもらい、台風が上陸する前日に保護した。「まろん」と名付けた母猫を迎え、母娘2匹との新たな生活が始まった。「親子といえども久しぶりだったので、大丈夫かなと思ったのですが、取越し苦労でした。2匹で仲良く暮らしています」。

「それから(大家さんの)お言葉に甘えてしばらくマンションで暮らしていましたが、上層階だと自然が全くないので、猫達がリラックスしながら過ごす事のできる良い物件がないか探して始めました」。2020年春、森に囲まれた猫には快適な戸建てが見つかりくるみとまろんを連れて引っ越した。

猫飼い初心者だった女性サーファー、今ではまろんとくるみを「溺愛する毎日です」とあれだけ好きだったサーフィンも土日の限られた時間だけ費やすようになり、ほぼ猫中心の生活となっている。“里親”が見つかったまめも含め、会社に出没した野良猫3匹は、快適な猫生を送っている。

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