山形県在住のめぐくさんが、その猫を最初に見かけたのはちょうど1年前の9月だった。野良の三毛猫は、自宅近くの空き地で右後脚を上げて歩いていた。その後、雨が降る寒い夜に再会。軒下で雨やどりをしている猫に「雨やだね。大丈夫?」と声を掛けて去ろうとしたが、雨に濡れながらめぐくさんの後を追いかけてきた。
めぐくさんは他にも世話をしている外猫がいるため、家族から「これ以上はダメ」と強く言われていたが、不自由な脚で一生懸命ついてくる姿を見て、放っておくことはできなかった。段ボールとタオル、エサを用意。車庫に即席ハウスを設置し、寒くないように湯たんぽを与えた。
先住猫2匹のためにもTNR(T=TRAP「つかまえる」N=NEUTER「不妊手術する」R=RETURN「元の場所に戻す」)を考えていた矢先、不幸が訪れる。冬になって、その猫は交通事故に遭ってしまった。
仕事から自宅に戻ると、家族から「なんだか怪我して帰ってきたみたいよ?」と言われ、あわてて車庫を見に行くと、敷いてあるタオルが血で真っ赤になっていた。近くに夜間動物病院はなかったため、翌朝一番に病院に駆け込んだ。獣医師からは「これは交通事故ですね。よく耐えましたね」と告げられた。顎が骨折し、舌が真ん中あたりまで裂けている状態だった。退院まで1カ月ほどかかったが、面会に行くたびに元気になっていく姿をみて「嬉しい気持ちになりました」と安堵したという。
ただし、入院中の検査で、猫エイズキャリアと判明。ストレスの多い生活をすると猫エイズを発症してしまうリスクが上がると聞き、めぐくさんは家猫にする覚悟を決めた。退院後も10日に1度のペースで通院、口内炎が多くできていることが判明、対処療法しかなく、痛み止めを処方された。2か月間、投薬を続けたが、ひどくなる一方でセカンドオピニオンへ。
別の病院では、ひどい歯肉炎だと診断され、歯のほとんどを抜く手術を提案された。歯を抜かないと、歯茎からばい菌はなくならず、痛みで性格まで変わってしまうおそれもあると聞いた。めぐくさんは「穏やかな性格の子が穏やかでいられないのは可哀想」と、その日のうちに手術することを決断した。抜歯の手術後、獣医師から「事故で骨折した部分の歯は今回残した。治ってはいるが、抜歯のせいで弱くなってしまうと悪いから」と説明を受けた。「色んな事を考えて治療して下さる先生には本当に感謝しています。経過をみながらその部分を今後抜くかどうかを考えています」(めぐくさん)。
不自由な後ろ脚、交通事故、猫エイズキャリア、歯肉炎…野良猫生活を続けていたら助かっていなかったかもしれない命。めぐくさんはその三毛猫を「ビッケ」と名付けた。「近所の人たちからブサイクな猫と呼ばれていたので、名前をつけようと思い、ビッコをひいていた(足をひきづって歩く)のと、ミケだったことからビッケにしました」。
晴れてめぐく家の家族となったビッケ(メス、推定3歳)、今では毎朝5時になると決まってニャーニャーと鳴くほどまでに回復した。大きなその鳴き声は「おかげで寝坊しなくなりました」と、目覚まし代わりになっているそうだ。