母猫との別れが甘えん坊を変えた 茶太郎くんが、お家にやってくる保護猫たちの「お世話係」になるまで

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

今でこそ地域猫の存在は、よく知られたもの。しかし、十数年前は今ほど浸透はしていませんでした。ただの野良猫、邪魔な存在だと受け取る人が少なくなかったのです。そこから生まれる悲劇も…。

東京都大田区の16歳になる茶太郎くんも、元は地域猫。母猫はメスでは珍しい茶トラで、茶太郎くんの姉も茶トラだったよう。

今から16年前、いつものように地域猫の世話をしていたHさんは、あることに気づきました。それは、茶太郎くんの姉がいないこと。この時、茶太郎くんと姉猫は生後約半年の可愛い盛りです。

猫を可愛がっている人が引き取ってくれたら良いのですが、可愛がる目的でない人もいる。それは、長年の保護猫活動からよく知っています。実験動物にしたり、虐待を加えたり…。特に当時は猫の虐待がクローズアップされていた時期です。

しかも、いなくなったのは珍しい茶トラの女の子。この子は茶トラらしくおっとり優しい性格のため、人を疑うことを知らずに捕まってしまったかもしれない。その原因を作ったのは、餌やりやトイレ掃除といった世話をする自分かも知れない…。人間を疑うことを教えなかった。

そう感じたHさんは、茶太郎くんと母猫の保護に乗り出します。母猫は長年地域猫をしていますから激しく抵抗しましたが、茶太郎くんはすんなりHさんの家の子になりました。母猫はあまりに激しく抵抗するため、避妊手術後にいったん元の場所に戻し、寒くなってから再度声かけ。すると今度はHさんに自分から近寄り、すんなり家の子に。

こうして茶太郎くんと母猫は、温かく安全な家の猫になりました。先住猫たちとの関係も良好で、Hさんも一安心です。

茶太郎くんは母猫が大好きで、乳離れしてもお母さんにベッタリの甘えん坊。お母さんもずっと自分を頼りにしてくれる茶太郎くんを可愛がります。ところが、そんな甘い時間は長続きしませんでした。母猫に乳がんが発覚し、治療のかいなく虹の橋のたもとへ。残された茶太郎くんは途方に暮れます。

そんな時、茶太郎くんに寄り添ってくれたのが先住猫たちです。代わる代わる茶太郎くんを毛づくろいしたり一緒に寝たり。猫なりに死の概念を理解し、茶太郎くんの心を癒そうとしてくれたのです。

茶太郎くんは仲間たちの想いをうけ、元気を取り戻します。そして、今度は自分が他の猫をお世話をするように。母猫との別れが、いつまでも甘えん坊の息子のままではいられないと気づかせたのです。

保護されたばかりで不安な猫にはそっと寄り添い、元気いっぱいな子猫とは一緒に遊ぶ。個人で保護猫活動をするHさんが手の届きにくい猫たちのサポートを、茶太郎くんが買って出てくれるようになりました。

今ではHさんの家の11匹の猫の中で、2番目に年長の茶太郎くん。16年の間に受け入れた猫、見送った猫は一番多くなりました。茶太郎くんがいたからこそ、元気になった猫もたくさんいます。

でも、甘えん坊な性格はそのまんま。年長者になった分、ちょっとワガママなところも出てきました。例えば、新しいベッドが置かれたら、全部自分のものだと思っちゃうみたい。「他の子も使って良いけど、僕は使いたい時に使うよ」って言っているかのよう。しかし、いざという時には他の猫の頼れる存在です。

気づけばHさんとは長い付き合いになりましたが、Hさんはその予感があったみたい。

「茶太郎と出会う数年前、ふと頭に茶太郎という名前が浮かんだんです。保護したのは成り行きですが、出会うべくして出会ったのかもしれません」

運命の出会いだったからこそ茶太郎くんはHさんの活動を理解し、他の保護猫たちのお世話を焼いているのでしょう。

ちょっと空気が読めずにグイグイいき過ぎることもある茶太郎くんですが、元気なうちはHさんの活動を応援してくれるはずです。頼りにしているよ、茶太郎くん!

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