さくちゃんは野良猫だったが、個人でたくさんの猫を保護している村上さんの家の裏手に現れた。毎日朝晩姿を見せるようになったので外猫に昇格。村上さんは、快適なごはんどころも用意した。ある時、さくちゃんは脚に怪我をして帰ってきたが、なかなか出血が止まらなかった。
快適なごはんどころで過ごす外猫
2016年7月初旬、埼玉県に住む村上さんの家の裏手に見知らぬ白猫が現れるようになった。
しばらくは通い猫として時々ごはんを食べに来ていたが、毎日朝晩現れるようになったので、村上さんは駐車場にごはんどころを用意した。
初めのごはんどころはワイドストッカーに出入り口をつけただけの簡易なものだったが、その後去勢手術を受け、村上家の外猫として正式に迎えるにあたり、木造二階建ての小屋をプレゼントしたという。
一階に玄関とトイレを設置し、二階が寝室兼食事スペースになっているごはんどころ。冬は電気マットに天板ヒーター、夏はひんやりボードに扇風機のある快適空間だった。白猫も気に入ってくれて、すっかり自分の家として毎日そこで過ごすようになった。
外猫だったが、村上さんは「さく」という名前で呼んでいた。
「一匹狼みたいな強くてかっこいい印象があり、朔太郎、朔二郎、みたいな男っぽい名前にしたかったのです。名付けてすぐに自分の名前を憶えてくれて、外で『さく~』と呼ぶと、どこからともなく駆け寄って来てくれました」
よくケンカ傷を作っていたさくちゃん
外で快適に食事をしたり、睡眠を取ったりしても、やはりテリトリーの巡回は欠かせないのが外猫の習性だった。
「特にオス猫はテリトリーが広く、よそ者を見つけたら闘いもしなくてはなりません。他の猫たちの活動が活発になる季節にはよくケンカ傷を作っていました」
ある時、さくちゃんが脚から流血し、びっこを引いて帰ってきた。数日経っても寝床に血がついているのを見て、村上さんは動物病院へ連れていくことにした。「これを機に家に入らない?」と白猫に聞いてみた村上さん。扉を開けて自分から入ってくれたら、うちの子になってもらうと決め、作戦を決行した。
「もはや、入るまで諦めない!という粘り勝ち的なものではありましたが(笑)」
こうして、ごはんを食べに来るようになってから丸2年が経過した2018年6月30日、さくちゃんは、やっと村上家の子になった。
顔つきが変わる
初めて家に来た時から顔も体も大きく、その風貌や目つきからもボス猫的強さを感じていました。
「ご飯や寝床を提供されても人には絶対媚びず、孤高のライオンのようにかっこよくて、触れなくても甘えられなくても全く不満はなかったのです。それが、一年ほど経過したころからほんの少し距離が縮まり、徐々に心を許し始め、顔や背中をなでさせてくれるようになりました」
家猫になって2年半以上経過した今でも、甘えたいけど怖い、という葛藤がさくちゃんには残っている。顔つきはずいぶん変わり、今では目を細めたアイコンタクトが得意な、本当に優しい顔になったという。
猫エイズウイルスキャリアだった
さくちゃんを家に迎えるにあたり血液検査をしたところ、猫エイズウィルスのキャリアと分かった。
「他の子との相性によってはずっと隔離生活になるかもしれないと覚悟しました。というのも、外でたくさんケンカをして傷だらけだったからです。まずは2カ月間、部屋を分けて家の暮らしに慣れてもらう準備期間を設けました」
さくちゃんは、とても温厚で優しいことが分かった。人から逃げることはあっても、牙をむくことはなかった。生活になれたところで、フェンス越しに他の猫たちと面会を繰り返し、相性をみた。
さくちゃんは他の猫を威嚇したり攻撃したりする様子はなく、はじめから仲良くできそうな雰囲気だった。まわりでもめている子がいても、必ず一歩引いて接することができた。
癒し猫
ある日、村上さんが手からおやつをあげると、おいしくて思わず手までガブッと噛んでしまったが、即座に「いけない!」という顔をしたのが印象的だったという。
「それからは噛まないように、気を付けながら『はむ』と咥えるようにしています。
他の猫に対しても大きな心で接してくれていて、突然はたかれてもやり返したりしないし子猫にからまれても受け入れています」
唯一遊び相手として認識しているのが、同い年くらいのかいちゃんだ。かいちゃんとは時々追いかけっこをして遊んでいて、さくちゃんの無邪気な表情を見ることができる。
「さくは人に対してだけでなく、猫に対しても距離の取り方がとても上手な子です。もしかしたら、自分の境遇や病気のことも理解していて、仲間に入れてもらったことへの恩返しをしているのかもしれません。それほどいい子なんです」
外にいた時とのギャップが激しすぎて、くつろいで寝ている姿だけでも癒し度満点。どんな時でも心をほぐしてくれる天才なんだという。