家族に迎えたのは人馴れしてない母子猫 小さな命が娘たちの成長を感じさせてくれる!

岡部 充代 岡部 充代

 母猫の名前はシフォン。息子猫の名前はフィガロ。滋賀・彦根市に暮らす母子猫は2年前の冬に兵庫・西宮市で保護されました。

 先に保護されたのはフィガロ君です。地域でTNR(T=Trap/捕獲し、N=Neuter/不妊去勢手術を施し、R=Return/元の場所に戻す)活動をしていた田村美和さん(仮名)が捕獲し、子猫ということでリターンはせず里親募集することに。母猫はというと、同じエリアにメスの成猫が2匹いましたが、間もなく捕獲できた1匹は「不妊手術の所見では出産したようではなかった」と獣医師に言われたため、1か月後に捕獲したもう1匹(現・シフォン)がお母さんだろうということになりました。

 捕獲当時のシフォンさんは単独行動しており、どうやら育児放棄していた模様。のちに分かったのは、かつて大きなオス猫に襲われたことがあるということでした。偶然、目撃した人が止めに入ったとき、道路は血だらけ。捕まえて治療できたわけではありませんから幸いにも自然治癒したのでしょうが、その後も過酷なノラ生活を送っていたことは想像に難くありません。うまく子育てできなかったのは自分が生きることで必死だったからでしょうか。

 シフォンさんは不妊手術後にリターンの予定でしたが、様々な事情が重なり里親募集することになります。田村さんは2匹を保護している間に“親子の絆”を強く感じる出来事があったのだとか。

「フィガロ君が嘔吐を繰り返してぐったりしていたとき、それまで無関心だったシフォンさんが一生懸命舐めてあげていたんです。そして、病院から戻ると怒りを私に向けてきました」

 田村さんはツテを頼り、里親募集サイトにも掲載してシフォンさんの家族になってくれる人を探しましたが、全く馴れていない成猫は難しく…。できれば子猫と一緒にと考えていたのでなおさらです。

 そんな母子猫に手を挙げてくれたのが、杉本奈映さん(仮名)と2人の娘さんたちです。2015年に愛猫・なっつちゃんを亡くし、18年にはご主人が旅立ち…悲しみの中、もう一度猫と暮らしたいと考えたとき、里親募集サイトで出会ったのがシフォンさんとフィガロ君でした。

「人懐っこい子より、ハードルが高くて引き取り手がいない子たちに心惹かれました。ペットショップの売れ残りの子たちを見て回ったり、ネットでも掲載期限が迫っている子たちを探していたんです」(杉本さん)

 実は、娘さんたちには発達障がいや弱視といった“特性”があり、物事が予定通りに進まなかったり、想定外のことが起きるのが苦手です。そういうご家庭で動物を迎える場合、「飼いやすい子」を選びそうなものですが、杉本さんは違いました。

「今は理解あるたくさんの大人が支援してくれますが、いずれ自分たちで何とかしなければならなくなる。苦手なことにどう向き合い、耐性をつけ、コントロールしていくか。そんな“課題”もあったので、最も思い通りにならない猫は、娘たちに癒し以上の何かを与えてくれるのではないかと思ったんです」(杉本さん)

 2匹は最初、ごはんもトイレも家族が寝静まってからしかできないほど怯えていましたが、娘さんたちはそんな猫たちの気持ちをおもんぱかり、「触りたい」衝動を抑えてじっと見守っていたそうです。

「娘たちがあんなに忍耐強いとは意外でした。長女が『ケージにばかりこもって家に慣れないから片付けよう』と提案したときには、次女が泣いて反対したんです。『隠れる場所、安心の場所を取り上げてはかわいそうだ』って。ああ、そんな風に考えてあげることもできるようになっていたのかと、成長に驚かされました」(杉本さん)

 娘さんたちは「今までつらい体験をしてきたんだよね。頑張ったんだよね。大丈夫、ここは怖くないよ。安心してね」と声を掛けてきたそうです。

 そんな家族の優しさに包まれているからでしょう、ゆっくりではありますが、2匹は心を開いてきています。フィガロ君は娘さんの膝に乗りますし、今も30センチ以上は距離を縮められないというシフォンさんも、“ちゅ~る”の時間になると自分から近づいて来るようになりました。家の中の行動範囲も広がっているそうで、それはフィガロ君がリードしているのだとか。

「まずはフィガロが“見本”を示してシフォンを誘うんです。ケージの外へ出るときもそうでしたし、私たちにスリスリして『大丈夫だよ』と教えているようでもありました。フィガロのほうがむしろ大人びていて、シフォンの“盾”になろうとしているんです。ケージの中でもいつもシフォンが奥、フィガロが前で、人目から隠すようにしていました。親子の絆の深さには感心させられることが多いですね」(杉本さん)

 母子猫の成長とともに、娘さんたちの成長も感じているという杉本さん。「ある意味チャレンジでしたが、シフォンとフィガロを迎えて良かったと思っています。小さな命を通じて娘たちは自分と向き合い、多くのことを学んでくれています」。そう言って微笑んでくれました。

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