SNSで語呂合わせ的な歯科医院の看板投稿が目についた。「ア歯科」(愛知県一宮市)、「かも(加茂)歯科」(新潟市など全国各地)などと共に、「ナウ歯科」という、「風の谷」にありそうな名称の看板もある。複数ある中からコンタクトの取れた神奈川県平塚市の「ナウ歯科おのせクリニック」に取材を申し込んだ。歯科医療の現在と未来についてといった学術的な話ではなく、「なぜ、ナウ歯科?」という、ただそれだけである。恐縮です…。ダメ元でお願いしたのだが、快諾してくださった。さっそく、いざ鎌倉…の先にある平塚へと向かった。
その前に「風の谷のナウシカ」をおさらいしておこう。宮崎駿氏による漫画作品で、1984年に同氏が監督した劇場版アニメ映画が公開された。女優・安田成美のデビュー曲となった同名タイトルのイメージソングは作詞・松本隆&作曲・細野晴臣という元はっぴいえんどのタッグによる作品でヒット。アニメファンでなくても、唯一無二の細野サウンドに被さる安田の初々しい歌声が脳裏に刻まれている人も多いだろう。
平塚駅の北口から同院まで徒歩約3分。道中、電柱に表示された所在地の住所「紅谷(べにや)町」が気になった。診察を終え、応対してくださった小野瀬規院長に「風の谷」と「紅谷」の関係を尋ねると、予想は当たっていた。だが、その前にまず、なぜ「ナウ」なのかを問うた。
小野瀬院長は「2005年の開院時は医療法人で、その際、共同経営で立ち上げた3人の頭文字を取ったのです。野中さんのN、小野瀬のО、脇本さんのWで『NОW』です」と説明した。その決め手になったのが「紅谷町」だ。
小野瀬院長は「他にも『ОWN』などの案もあったのですが、『紅谷』だから『紅の谷のナウシカ(歯科)』でいいのではという発想です。読み方は『くれないのたに』としましたが、『べにのたに』と読まれることも。いずれにしても、当初は『紅の谷のナウ歯科』という名称だったのです」と、「衝撃の事実」を明かした。
06年に小野瀬院長が独立して個人で経営を引き継いだことを機に、「おのせクリニック」を名称に入れ、冠部分の「紅の谷」は「名前が長くなる」ということで外して現在の名前になった。実質、冠に「紅の谷の」が付いていた期間は「半年くらいでした」(同院長)という。
そのまま今年で15年目。「ナウ歯科」は平塚の街に定着している。小野瀬院長は「名前のインパクトや印象が強くて忘れられにくいですし、『ナウ』という言葉がツイッターなどでよく使われる『なう』(日本で07年頃から使われ始めたとされている)とも重なって、時代的にも合うかなという所はありますね」と振り返った。
ちなみに小野瀬院長は71年生まれで、映画や曲のヒットによって「風の谷のナウシカ」が幅広い層にも知られた頃は中学生だった。作品自体については「もちろん知っています。ラピュタやトトロも見ていました」。そのネーミングから「院長先生はジブリファン」と思われることもあったというが、同院長は「そこまでではないです。あくまで3人の頭文字がきっかけです」という。
名前の由来を聞き終え、院内を見渡した。木の材質を生かしたウッディな内装。同院長によると「患者さんの気持ちを和らげよう」という意図だとか。スタッフも白と黒のユニホームを5~6年前から導入し、従来の歯科ではなく、エステティックサロン的なおしゃれな雰囲気がある。
同院では歯の「ホワイトニング」にも力を入れている。小野瀬院長は「ホワイトニングへのニーズが多いです。歯を白くしたいという美容的な所を意識する患者さんが増えています。昔は『歯をもろくする』イメージがあったのですが、今は材料とかお薬が良くなって、歯へのダメージがないということが広まったこともあるかもしれないですね」と語る。治療に関する詳細は「ナウ歯科おのせクリニック」のホームページで確認できる。
紅の谷から白い歯へ。