「Change.org」というWebサイトをご存知だろうか。どこかの誰かが問題提起し、賛同した人が「賛同ボタン」を押す。つまりインターネット上の署名活動で、世界196カ国で活用され、日本でも多くのキャンペーンが立ち上げられている。問題解決につながったケースも少なくないようだ。
そのサイトに「香川県動物行政へ、保護犬理解促進の為に、殺処分ワースト返上タウンミーティングへの協力を!」というキャンペーンが立ち上がった。発信者は澤木崇氏で、全国でいち早く生体販売をやめ、保護犬譲渡に踏み切ったペットショップの運営に携わった人物である。なぜ香川なのか、今後どのような活動をしていくのか、お話をうかがった。
――今回のキャンペーンを立ち上げた経緯は。
澤木 香川は犬の殺処分数が5年連続、殺処分率が8年連続、全国ワースト1位です(環境省発表は平成29年度まで)。しかも、殺処分数は2位徳島と大差の断トツ1位(香川:1687頭、徳島:608頭)。そういう状況で、今年3月に「さぬき動物愛護センター」がオープンしたのですが、オープン前に「Change.org」に行政に批判的なキャンペーンが立ち上がりました。新しいセンターができることで殺処分が増えると。それに対して疑問視する投稿をしたり、県に電話で確認したりする中で、香川のボランティア団体の方や行政の方とつながりができたんです。
私は岡山でペット業界の仕事をしてきましたが、岡山は殺処分数が少なく譲渡返還率が高い。それは長く活動してきた方々の努力の積み重ねで、愛護団体と行政がうまく連携しているからだと感じています。一方で、私の故郷でもある香川は全国ワースト。その香川の状況を変えていくには、民間だけでは難しい。だから今回、キャンペーンを立ち上げました。行政主導でと言っているのではありません。私たちが開催するタウンミーティングに参加するか、せめて傍聴だけでもしてほしい。会場提供でもいい。不名誉な記録を更新しないよう、一緒にやっていきませんかということです。
――賛同者も増えています。
澤木 おかげさまで、1万5000人の目標に対して1万3000人近い方が賛同してくれています。新しいセンター長とお話しする機会もあり、いい関係を築けそうだと感じました。
――以前、勤められていた岡山のペットショップでは2015年に犬の生体販売をやめ、保護犬譲渡を始めました。澤木さんが発案者とか。
澤木 まだ生体販売をしているとき、お客様に愛護団体の代表の方がいて、保護犬・保護猫事情について知る機会を得ました。当時は全国で約12万8000頭の犬・猫が殺処分されていて、その数を減らそうと活動している人たちがいるのに、ペット業界は増やし続けている。そこに大きな矛盾を感じたんです。一時的に売り上げは落ちますが、通信販売によって補えることをしっかりプレゼンしたので、社内で反対はありませんでしたよ。
――実際、そのペットショップは収益を伸ばしました。
澤木 その通りです。私は今、その会社を離れてフリーランスですが、同じような取り組みをしたいというショップから相談を受けて、コンサルタントの仕事もしています。岡山の「Pet Life Potter」では昨年11月に生体販売をやめました。私はそこで通販部門を立ち上げて、担当しています。他の県にもそういうペットショップができつつありますし、最初のショップがビジネスモデルになったのならうれしいですね。
世論は生体販売に厳しくなってきていますから、いつまでも旧態依然とした経営では立ち行かなくなる。生体販売市場は縮小していくと思っています。
――今後の活動予定は。
澤木 岡山県の吉備中央町にある廃校を利用して、犬・猫のシェルター、そして犬の介護施設を作る計画が進んでいます。廃校を買い取ったのはペット業界で仕事をしていた友人で、私も参画する予定です。まず猫の保護施設を2階にオープンし、次に1階で犬の保護施設、3階は老犬ホームにと考えています。広大な敷地を利用してドッグランも作れますし、獣医師に常駐してもらい、保健室を使って治療や手術を行う計画もあります。
従来の寄付やボランティアに頼る運営では継続が難しいですから、オーナーが代わっても継承、継続できるように、職員にもしっかり給与を払えるように、企業を中心にスポンサーを募って、ビジネスとの融合を考えています。保護犬や保護猫でビジネスをするのではなく、ビジネスで保護犬や保護猫を救うという発想です。
――成功すれば、それがまたモデルケースとなるかもしれません。
澤木 犬や猫を救うことができて、さらに廃校を活用することで過疎化の進んだ町に人が集まる。そういうビッグプロジェクトにしていければと思います。
◇ ◇
環境省の発表によれば、平成29年度は4万3000頭を超える犬・猫が殺処分された。この数字を「0」にするには、澤木氏のように新しい発想で、新しい取り組みができる人たちの存在が必要不可欠だ。