電動工具を握ったこともなかった夫婦が、48万円で購入した築71年の家を自分たちでリノベーションし、息子と愛犬とともに暮らし始めました。作業中は滞在できる住まいが見つからず、一家はテント生活をしながら、残置物の撤去や傷んだ床の解体・張り替えを進めたといいます。床の張り替えの過程を妻がInstagramに投稿すると約9万回再生され、「解体からやっちゃうあなた、エライ!」「向いてなくないです!失敗はつきものです」といった声が寄せられました。
投稿したのは、夫と4歳の息子、ペットのサモエドと一緒に暮らすHikariさん(@hikari_diy48nagano)です。長野県・北アルプスの麓に立つこの家を購入したのは、一家でまだタイに住んでいたころのことでした。築71年・5DK、98.6平方メートルの物件を、写真を数枚見ただけで、実物は見ないまま48万円で購入しました。セルフリノベーションの方法は、YouTubeなどを見て学んだそうです。「48万円という値段に対して、水回りがきれいだったのが購入の決め手でした。どうやら10数年前に、水回りだけリノベーションされていたようです」
水回りが使える状態だったことに加え、Hikariさんは「この家はきれいにしたら化ける」と感じたといいます。北アルプスの麓で“自分たちの城”に住むことを思い描いていました。
リノベーション期間は3カ月、材料費の予算は30万円と決め、帰国後に現地での作業を始めました。しかし、作業を進めるほどに、残置物の多さや床の傷みが想像以上だと分かってきたそうです。
「どんどん進めていくうちに残置物のレベルは高く、床の状態は最悪。それでも後戻りできない、といったのが本音です」
1階にはピアノやアンティーク調の棚、レトロな食器やティーカップ、椅子などが残されたままでした。家の中からはネズミの巣が見つかり、マムシを漬け込んだ酒瓶まで残されていたそうです。床には、黒く腐った箇所もありました。
2階の子ども部屋には、大量の少女漫画や古いおもちゃ、天体望遠鏡やスピーカーが残っていました。引き戸は建てつけが悪く、廊下や床には目立つ傾きがあり、壁の端にはカビも見られたといいます。さらに、大量の少女漫画や古いおもちゃ、天体望遠鏡やスピーカーが残されており、かつて暮らしていた家族の面影を感じさせたといいます。一方で、引き戸の建てつけが悪く、廊下や床には目立つ傾きがあり、壁の端にはカビも見られるなど、修繕すべき課題は山積みだったそうです。
一方、購入の決め手になった水回りは、写真で見たとおりの状態だったそうです。
「水回りに関しては、写真で見たとおりきれいでした。キッチンに広めのシンクがあったので、タイルを貼っておしゃれにする構想を練っています。トイレは比較的きれいで、壁紙と床の張り替えだけで使えそうでした。お風呂は浴槽は狭いながらも、脱衣所にはかわいいタイルが残っていて、カスタマイズしがいがありそうです」
作業期間中の住まいにも苦労しました。山の貸別荘は犬の室内飼いが認められず、ほかの物件は短期で借りられませんでした。そこで一家は貸主の了承を得て、貸別荘の裏庭にテントを建てて暮らすことにしました。ところが、春から初夏にかけて野生動物の動きが活発になり、熊の出没情報も増えたことから、犬や子どもの安全を考えて作業期間を1カ月短縮したといいます。
「いま私がここで折れたら、犬や子どもの安全な暮らしを確保できなくなる、という思いが、ストレスであると同時に原動力でもあったと思います」
中でも苦労したのが床です。大引(木造住宅などの1階の床を支える水平な角材)以外を、すべて新品にしました。当初は全解体の予定がなかったため、解体しながら作業の段取りを自分で組み直していくことが一番大変だったといいます。
根太(フローリングや合板を固定するための木材)の設置間隔を間違える失敗もあったそうです。
「特に構造に関わる部分を補修する際の精神的プレッシャーは、今思い出しても二度とやりたくないなと感じてしまいます」
完成が近づくと「こんなに苦労して作り上げた床を、ただの『床』と呼ぶのはもったいない」という気持ちが芽生え、「床蔵(ゆかぞう)」と名付けました。夫が歌舞伎俳優の市川團十郎さんのファンで、息子のあだ名にも犬の名前にも軽トラにも「蔵」を付けてきたことにちなんだ名前だといいます。
一家は2カ月かけて残置物の撤去とリノベーションを進め、6月ごろにこの家へ引っ越しました。入居の時点で完成していたのは、リビングとキッチンの床だけでした。その後ランドリールームの床も仕上がり、現在は1階部分で暮らしています。
掃除をしてもほこりっぽさは残るものの、1階だけで暮らしている分、家族の気配を常に感じられて居心地がよいといいます。森の中でテント生活をしていたころと違い、犬の散歩中や夜に寝るときに動物を警戒しなくてよくなったことも、ありがたいと話します。
「エアコンや洗濯機を設置できたので、やっと人らしく生活できているなと、うれしく思います。4歳の息子は、穴の空いた天井や土の見える床下をおもしろがってくれています。毎日どこかしらできあがっていく様子を見て、『ママ大工さんだねぇ、すごいねぇ』と褒めてくれます」
犬も、森の中で暮らしていたころより警戒心が薄れ、リラックスしている様子だそうです。引っ越しは、暑くなる前にエアコンのある環境を整えようと急いだものでした。
「涼しい室内でヘソ天して寝ている姿を見ると、頑張ってよかったと感じます」
床の張り替えに関する投稿には、「向いてなくないです!失敗はつきものです」「失敗は成功のなんとやら」といった声が寄せられたほか、同じようにDIYに取り組む人たちからも多くのコメントが届きました。InstagramだけでなくThreadsにも、職人や古民家DIYをしている人からコメントやDMが届くといいます。二重合板へのプラン変更や、水糸・墨壺の購入は、そうしたアドバイスを受けて決めたそうです。
「フォロワーさんは、お師匠のような存在です。その方々と一緒に48万円の家を再生している気持ちで、いつもコメントを読ませてもらっています」
今後は、ランドリールームを仕上げたあと、キッチン、洗面所、トイレ、寝室の順に手を入れ、2階の3部屋も整える予定です。電気工事士の資格取得も目指しており、筆記試験には合格しました。技能試験は、今の家のDIYを優先して下期に延期したといいます。最低限の暮らしが整ったら、LDKを和モダン×ミッドセンチュリーの内装にすることや、残置物を生かしたインテリアも考えているそうです。
「タイに住んでいたころも不便さを楽しんで暮らしていましたが、今思うと、物やサービスを買い、すべてお金で解決する『消費』する暮らしだったと感じます。長野でセルフリノベを始めて、重い残置物や合板を一日中運び続け、それでも自分でなんとかしないといけない状況に立ち、今までの生活がどれだけ他力頼みだったかを思い知らされました。これからは消費だけでなく、家の再生や農など『生産』側に立ちたいという思いが強くなりました。地域の方々やご近所さんの温かさに触れる機会も多く、海外の刺激とはまた違った充実感を得ています」