他人の優しさを素直に受け取れない時は、いったん時間を置いてみるのもいいかもしれません。餅田ぷりさんが中学生ふたりの節約生活をコミカルに描いた作品『なんぼの食卓 第5話』では、カイがクラスメイトの優しさに素直に感謝できず、思い悩むエピソードが描かれています。この作品がX(旧Twitter)に投稿されると、1万を超えるいいねが集まりました。
中学生のカイと永見は、同じボロアパートに住む同級生です。2人はある日、アパートの大家さんの家でお茶を飲んでいると、カイが永見に相談を始めます。
カイが子ども食堂を使っていることをクラスメイトが知ってから、貧乏なカイを気遣って、カードゲームではなくバスケで遊んだり、給食を大盛りにしてくれたり、カラオケの無料券をくれたりしていました。しかしこの気遣いに、カイはありがたく思う一方で、心から感謝できないようです。
カイは永見に、この気持ちは何なのかと問いかけますが、永見も分からないようで言葉に詰まってしまいます。
その後、大家さんがやってきて3人で話しているうちに、カイは手元にある麦茶にはいくらかかっているのだろうと考え始めました。すると、クラスメイトに抱いているのと同じ、複雑な思いが胸をよぎるのでした。
大家さんが豆ご飯を炊いたから夕食を食べていくよう声をかけますが、カイは悪いからと断ります。しかし大家さんは聞き入れず、何がそんなに気になるのかと問いかけました。
カイは大家さんが夕食の支度をする音を聞きながら、人から優しくされるのがしんどく、逃げたくなるのだとこぼします。自分は性格が悪いのかもしれないと自虐したカイに、大家さんは唐突に自身の昔話を始めました。
若い頃、何も持たずに4人の子どもを育てていた大家さんは、ある人にお世話になって何とか生き延びられたのだといいます。大家さんはその人に心から感謝しましたが、それ以上に申し訳ない気持ちが強かったそうです。
さらに大家さんは、素直に感謝できるようになるには時間がかかるのだと続けました。だから今は何も考えず、優しさを受け取っていればいいのだと。
大家さんは2人のもとに夕食を運ぶと、カイに白ご飯を渡しました。豆ご飯が出てくると思っていたカイが驚くと、大家さんはカイが野菜が苦手なのを知っていて、カイのご飯から豆を抜いたのだと言いました。カイは大家さんの優しさに触れて絡まっていた気持ちが少しほどけたのを感じ、大家さんに感謝の気持ちを伝えるのでした。
読者からは「めっちゃ泣けた」「優しさを受け取るのって難しい」といった感想が寄せられました。そこで同作について、作者の餅田ぷりさんに話を聞きました。
恥ずかしいトラウマを持つ読者に寄り添いたい
ーこのエピソードを描いたきっかけを教えてください。
この作品はもともと1巻で終了する予定でしたので、物語を最高の状態で畳めるように要になる回が必要だと思い、今回取り上げていただいた第5話を制作しました。
反響があったため連載が続くことになったのですが、第5話を描いていた頃は連載を続けられるか終了になるか、まだ決まっていませんでした。
ー読者からはどのような反応がありましたか?
物語の感想よりも、読者さんの実体験を送っていただくことが多かったです。永見とカイと同じ経験をしたわけではないけれど、同じ気持ちになったことがある方々が、その実体験を語ってくれました。物語より生々しい経験や感情がそこにはありました。この話を通じて、読者さんたちそれぞれの記憶が呼び起こされたのかなと思いました。
ー「今はただもろとく 今を生きるためだけに」という大家さんの言葉は、餅田さんの実体験から得たものなのでしょうか?
はい、そうです。私は持病があり、20代のときは家族と公的支援に頼った生活をしていました。同世代の人たちが自分の力でお金を稼いで生活している中で、その当たり前に手が届かない自分が悔しく、恥ずかしかったです。
もしかするとこのセリフは、私が誰かに言ってほしかった言葉なのかもしれません。だから同じような感情になっている方々に、この言葉を送りたかったんだと思います。
ーこの作品を通して読者に届けたい想いを教えてください。
私は読者さんが「恥ずかしい」と思った感情のトラウマを少しでも癒したいです。「恥」のトラウマって他人になかなか話せないし、自分だけで向き合うのも勇気がいることだと思います。私はその難題に、物語を使って読者さんに寄り添いたいと思っています。
9月15日(火)にこの話が収録された『なんぼの食卓』第1巻が発売されます。気になった方は是非読んでいただけますと幸いです!
<餅田ぷりさん関連情報>
▽Souffle(「なんぼの食卓」連載中)
https://souffle.life/author/nanbo-no-syokutaku/
▽電子書籍『なんぼの食卓 1』(Amazon)(9/15発売)
https://www.amazon.co.jp/ebook/dp/B0H877ZDZB
▽X(旧Twitter)
https://x.com/motipuri00