ここ数年でスーパーなどのヨーグルトコーナーに変化が…。これまではファミリーサイズはプラスチックの容器が主流でしたが、最近よく見かけるのがパウチタイプのヨーグルト(以下、パウチヨーグルト)。市場は2倍以上にもなっているそうで、なぜ人気になったのか、これまでの常識を覆すパッケージはどのように開発されたのか?
パウチヨーグルトの先駆者である岩手県の「岩泉ホールディングス」に、急成長の秘密を取材しました。
急成長のパウチヨーグルト市場
これまでのヨーグルトは、プラスチック容器に400~500g相当が入ったタイプが一般的でした。近年、550~1000g相当のパウチヨーグルトの発売が相次ぎ、取材時点で52商品。【出典:インテージ(2025年10月~2026年3月)】
代表的なパウチヨーグルトとして、大谷翔平選手が「世界一おいしい」と評した「岩泉ヨーグルト」。誕生したのは18年前です。
それ以降に、キャラクター“みるくぼーや”のイラストがかわいい岩手県の「湯田ヨーグルト」(YUDAミルク株式会社)、新潟県の「ヤスダヨーグルト」(有限会社ヤスダヨーグルト)など。これらはいずれもパウチがチャックタイプです。
また、新タイプとしてパウチにキャップを着けた、「カスピ海ヨーグルト リッチモ」(フジッコ、本社:兵庫県)、「北海道産の生乳と生クリームでつくったヨーグルト」(成城石井、本社:神奈川県)が登場。いわゆる大手も参入して、一気に広まった印象です。
2025年9月と新規参入ながらもヒット商品となっている「カスピ海ヨーグルト リッチモ」は「スイーツヨーグルト」というポジションを打ち出したのも特徴。おやつ・夜のデザートとしての“ご褒美スイーツ”、無糖で“罪悪感の無い”というフレーズも人気の理由のひとつに。
市場規模は約85億円で、ヨーグルト市場全体(国内約4,800億円)の中ではまだ小さいカテゴリーであるものの、急速に拡大。前年比(2025年度)約134%。3年前(2022年)と比べると、約229%(約2.3倍)【出典:インテージ(2025年10月~2026年3月)】と急成長しているのは確か。今後も、他社メーカーからの新たな商品の登場が期待されます。
ホームセンターでたまたま見つけて
「岩泉ヨーグルト」を製造販売する岩泉ホールディングスの代表取締役・山下欽也さんに開発秘話を聞きました。山下さんは、パウチヨーグルトの先駆者としてその界隈で知られる存在です。
「パウチヨーグルトが誕生したのは2008年。弊社が日本初、いやもしかしたら世界初かもしれません」
販路拡大のために訪れたあるホテルで「朝食ビュッフェで提供するヨーグルトは市販品を買って、ボウルに盛っている」というスタッフの言葉から、大容量ヨーグルトで出荷することを提案。
容器を探しにホームセンターへ行った際、たまたま目にしたのがアルミパウチ。「これに入れたら、手間が省ける!」と閃いたのが、パウチヨーグルト誕生の瞬間でした。
さっそく、アルミパウチに充填したところ、従来のヨーグルトよりももちもちの食感と甘みがアップ。
「もっちりした食感のヨーグルトは最近のトレンドのひとつですが、弊社のそれはそこを目指したわけではないんです。偶然の産物でした」
アルミパウチに入れたことで、想像以上のメリットが判明しました。
●酸素を通しにくく、酸化しにくくなる(酸味が増しにくい)
●遮光性があるため、香りを逃しにくく、風味が劣化しにくい
●低温長時間発酵に向いている
「充填前に商品が完成するのではなく、充填後も食感や味わいが増していく。これは小さなヨーグルト工場だ!と思いました」
低温長時間発酵製法で、濃厚かつ風味も良く、封を開けてからもおいしさがキープできるという長所。開発当時は会社は経営難だったそうですが、この商品の魅力はきっと伝わるという思いから、山下さんはパウチヨーグルトに注力していくことを決意します。
社内外で否定的な意見が大半だったのに…
食感や味わいに自信を得ましたが、見たこともないパッケージに当初はネガティブな声が圧倒的でした。
社内からは「ホテル用にはいいけど、スーパーでは売れないだろう」「こんなに大きいヨーグルト、誰が買うの?」「一般的なヨーグルトより高価格では?」。また営業に訪れたスーパーマーケットのバイヤーには「陳列する棚のサイズに合わないから無理」「洗剤と間違えられるのではないか」などマイナス要素ばかり指摘されたそう。
18年前の発売時は「岩泉ヨーグルト加糖2000g」1200円(原材料費高騰などにより現在は1720円、いずれも税込価格。販売店舗により取り扱い商品や価格は異なる場合あり)。見た目、サイズ感、値段もすべてが異例でした。
しかし、スーパーなどでサンプル販売を続けたところ、食べた人やスーパーで働くパート女性たちから「おいしい」「定番品で売って」「一瞬、高く感じたけど、大容量だから買う頻度が減る。結局値段に大差はない」の声が広がり、スーパーでは陳列棚の最下段に置くなどの工夫を凝らし、通常販売に。岩手県を中心に、徐々に販路が拡大していきました。
ヨーグルト人口を増やしたいから、あえて特許は取らず
同社のパウチヨーグルトの認知が広まるに連れ、スーパーでの実績を踏まえて他社も参入しやすい状況に。山下さんのもとには相談もあり、同社の工場を視察する企業も。その結果、パウチヨーグルトを販売する同業他社が徐々に増えていきました。
「このパッケージの特許を取ればいいと言われたこともあります。それをすると、弊社にはメリットがありますが、パウチヨーグルトの製造を諦めるメーカーも出てきます。それよりもパウチヨーグルトを愛する人が増えて、その人たちが多くのパウチヨーグルトからお気に入りを選べるような市場環境にしたいと思いました」
山下さんによると、ヨーグルトを日常的に食べる人は増えているものの、その人口はヨーロッパに比べるとまだまだ伸びしろがあります。
「パウチの特許は取らなかったことが、他社参入にもつながりました。パウチヨーグルト全体の成長になったことが喜びです」
ヨーグルト菌が違うから味も食感も違う
今のパウチヨーグルトは大容量タイプが主流。「少量タイプを製造して欲しい」の声も届いていますが、「少量にすると味わいや食感が変わってしまいます」と山下さん。ベストのおいしさを届けるために、18年間変わらない製法での大容量タイプを守り続けます。
パウチヨーグルトは増えてきましたが、使用するヨーグルト菌も発酵製法も各商品で異なります。山下さんは「パウチヨーグルトとひとくくりで言いますが、個性はさまざま。まずはいろいろなパウチヨーグルトを食べて、好みの味を見つけたり、シーンに合わせた食べ方を楽しんだりしていただきたいです」。
■岩泉ホールディングス https://iwaizumilk.co.jp/secret/