会社を退職する日、上司や同僚への挨拶に菓子折りは必要か。ネットでたびたび議論になる話題です。
職場文化の一つですが、SNSでは「辞め菓子」なる言葉もあり、退職や転職シーズンには「最終日に配るお菓子買わなきゃ」「辞め菓子持って挨拶まわり」といった投稿が散見されます。人間関係の潤滑油になると思いきや、中には「辞める職場に自分のお金を使いたくない」という意見もあるようです。
約50人分…菓子と手紙をラッピング
ビジネスマナーとして推奨されているわけではないものの、大手百貨店のオンラインストアでは退職挨拶用の菓子の特集ページが組まれ、職場向けの商品を提案しています。「退職の挨拶におすすめのお菓子20選」(三越伊勢丹)、「退職の挨拶に人気!おしゃれで喜ばれる個包装のお菓子20選」(阪急阪神百貨店)など。
また、ネット上にはさまざまな体験談が投稿されており、約50人いる同僚一人一人にお気に入りの焼き菓子とメッセージカードをラッピングして配った女性や、人気洋菓子を用意するためデパートで約2万円を出費したという人も。
必要だと思う理由は、感謝を伝えたいという以外に「辞めたあと、どこで出会うかわからないから」「将来またご縁があるかもしれない」「辞め方に人柄が出ると思う」など。
一方で、「感謝の気持ちを言葉で伝えるだけでいい」「無駄なお金は使いたくない」「退職者の誰が配って、誰が配らなかったかなど覚えていない」という理由から、不要だという声があるのも事実です。
職場コミュニケーションの専門家に聞いた
人材育成やコミュニケーションの専門家、桑野麻衣さんに話を聞きました。
──退職や転職の際、お菓子を持参し挨拶した経験は。
「あります。私自身の場合は、会社に採用していただいたことや、いろいろな経験をさせてもらえたという感謝の気持ちが強かったので、その心を形にするという意味でも、退職時には手紙を添えてお菓子をお渡ししました。もちろん、お世話になった方々には一人一人、感謝の気持ちを直接お伝えしたり、メールでもご挨拶しました」
──ネット上では賛否がある。
「確かに、以前は転職や独立といった選択肢は少数派であり、一つの会社に定年まで勤め上げる人が多数派だったため、長くお世話になる会社に採用していただいた、という意識を持ちやすかったように思います。そのため、入社する時も、退職する時も、感謝の気持ちが強かったのかもしれません。それに比べて、現代はコスパ、タイパが重視される時代。『(最終日にお菓子を配って)何の意味があるの?』と感じる人がいるのも理解できます。また、はじめから転職ありきで入社する人も増え、『今の会社に不満はないが、キャリアとして30歳までに2社目に行くと決めていた』という人も少なくありません。選択肢の多い現代では、1つの会社を辞めるときに『お世話になった』『辞めるのが申し訳ない』という気持ちを持ちづらくなった可能性はあります。良い悪いではなく、まさに時代が変わったということかもしれません」
──退職時、本当に大切なことは。
「次のキャリアビジョンがあるにしても、その会社にお世話になったことには変わりはありません。採用していただいたことや、育てていただいたことへの感謝の気持ちはきちんと伝えることをおすすめします。ただ、その気持ちを表現する形はお菓子でなくてもいいと思います。お世話になった人には対面での挨拶がベストですが、難しければ、退職日までにメールや電話、手紙で伝えてもいいと思います。辞めるに至る背景はさまざまなので一概には言えませんが、めぐりめぐって、今後古巣と関わることもあるかもしれません。自分の人生を長い目で見たときに、感謝の心を何かしらの形で伝える時間は無駄にはならないのではないでしょうか」
▽桑野麻衣さん 学習院大学卒業後、全日空に入社。最重要顧客DIAMOND会員専用カウンターのサービス責任者や教育訓練インストラクターを務めた後、ジャパネットたかたや再春館製薬所グループ企業で社員教育研修を担当。独立後は全国で企業研修や講演などを行う。著書には「オトナ女子のための心がつたわる言いかえ手帳」(成美堂出版)、「『また会いたい!』と言われる一流の話し方」(明日香出版社)、「部下を元気にする、上司の話し方」(クロスメディア・パブリッシング)などがある。