どんな人であっても、自分の心から安心できる居場所を求めているものです。漫画家・かわじろうさんの作品『あたらしいともだち かわじろう短編集』からの抜粋エピソード『ミニチュアとベンチ』では、自分の居場所を作りたい少女の想いが描かれています。同作はX(旧Twitter)に投稿されると、約3万ものいいねが寄せられました。
主人公の山本は、教室で本を読んでいるとクラスの女子から「隣の席西山くんだよね 私と席変わってくれない?」と言われました。言葉に詰まる山本に、「どうせ黙って本読んでるだけなんだし 山本さんは誰が隣でも同じでしょ」と言いくるめられてしまいます。
「私だって西山くんの隣がいいのに」と落ち込む山本は、帰り道にガチャガチャを回します。学校で嫌なことがあった日は、ミニチュアフィギュアを手に入れて自分だけの秘密の箱庭を作るのです。
今日は、道端の死角の植え込みにベンチと座った人のミニチュアを置き、『誰にも邪魔されない私だけの場所』を完成させました。山本は、ミニチュアに想いを重ねているとき、ちょうど同じ学校の生徒から「何かいる?」と声をかけられます。
山本はそっと逃げ出そうとするものの、生徒はミニチュアを見つけ「これいいね 私、今日学校で嫌なことあってね」「めんどくさいこと全部捨てて こんな世界で好き勝手したいなあ」と想いを重ねはじめました。
その様子に山本は、その生徒に自分のミニチュアコレクションを見せることにしました。しかし、一部のコレクションは剥がされ、無くなっていたのです。山本は「剥がされて当然だし、ほんとの居場所も作れない 変なもの見せてごめん」と落ち込みます。
そこで生徒は「そんならさ!ほんとに座れる場所、作ろう」と言い、木材を買って技術室に持ち込みました。2人で木材を切り、組み立て、本物のベンチを完成させます。完成したベンチは、中学校前のバス停に設置しました。
自分たちでつくったベンチを学校の窓から観察すると、お年寄りや疲れた人などが利用しはじめます。その様子を見続けていると、なんと隣の席だったクラスメイトの西山もベンチを利用し始めたのです。「あれはミニチュアじゃないんだよ」と言われた山本は、急いで西山のもとへと駆け寄ります。
そして、山本は「このイスつくったのわたし」と西山に話し、少しずつ話の輪が広がっていくのでした。
読者からは「心があたたかくなった」「ベンチが山本さんにとって本当の居場所になったのかな」などの声が寄せられています。そこで、作者のかわじろうさんに話を聞きました。
誰かの居場所まで作っていく勇気が持てたらいいなとの思いから描いた
―同作を描いたきっかけについて教えてください
最初は、マンガを学ぶために通っていた「ゲンロンひらめき⭐︎マンガ教室」の課題作品として描きました。人型のミニチュアをどこかに置くと、そこにスケール感の違う世界が見える感じがするのが面白いので、これを使って何かお話を描こうと思いました。
―山本さんが創り上げてきたミニチュアの『秘密の箱庭』は、彼女にとってどのような存在だったと想像しますか
教室の中に居場所がない山本さんが、それでも現実の世界に自分の場所が欲しいと思って作った秘密基地みたいなものだと思います。
―作品でとくに伝えたかったメッセージを教えてください
自分のために植栽の陰に小さなベンチを置くことも、誰かが座れる大きなベンチをバス停に置くことも、現実に何かを付け足すことで場所を作ろうとしている、という意味では同じです。そうやって作った自分ひとり分の居場所を足がかりにして、誰かがいる場所まで走っていく勇気が持てたらいいなと思って描きました。
今作が収録されている『あたらしいともだち かわじろう短編集』の短編はどれも、自分がお守りのように思っていることを詰め込むように描いた気がします。よかったら読んでいただけたらうれしいです!
<かわじろうさん関連情報>
▽X(旧Twitter)
https://x.com/cawajirooo
▽『あたらしいともだち かわじろう短編集』
https://www.amazon.co.jp/dp/4838733453
▽マガジンハウスのマンガWebサイト「SHURO」
https://shuro.world
▽SHUROのXアカウント
https://x.com/shuro_world