「“おいしい瞬間”は、誰もが幸せになれる時間だと思う。僕が撮った写真を見た時、『おいしい瞬間=幸せ』と感じてもらえたら嬉しいです」
そう話すたくまろんさん(takumaron1202)は自閉スペクトラム症と生きる、フードフォトグラファーだ。もともと趣味で写真撮影を楽しんでいたたくまろんさんは長年勤めた飲食店を辞めたことを機に、本格的にフードフォトグラファーとして活動するようになった。
「母親の愛情不足」と誤診され、自閉スペクトラム症の生きづらさに悩んで
人とのコミュニケーションに困難が生じる、特定の物事にこだわるなどの特性がある自閉スペクトラム症。たくまろんさんの場合は2歳を過ぎても言葉を発しなかったため、療育センターの児童精神科医師に診てもらったという。
ところが、医師から告げられたのは「母親の愛情不足」という言葉。当時、母親は難病の長女にかかりきりだったため、医師の言葉を信じ、自分を責めたという。
その後、こだわりの強さや人と視線を合わせないという特性も現れたが、話す言葉は増え、保育園では友達とも遊べていたことから、母親は安堵した。
だが、小学校に入学後、たくまろんさんは人とのコミュニケーションの取りづらさに悩むように。小1の夏休み前には、不登校になった。
「小2になって少しずつ学校に行けるようになりましたが、友達や先生と全くコミュニケーションが取れなくて…。支援学級の先生に勧められて、支援級に入りました」
小5の頃にはこだわり行動がより増え、生きづらさを強く感じるように。ある日、包丁を持ち、「死にたい、死んでやる」と口にしたことから母親はスクールカウンセラーに相談。メンタルクリニックを受診することになり、自閉症スペクトラムであることが分かった。
7年勤めた飲食店を辞め、フードフォトグラファーの道へ
たくまろんさんは仲のいい友人であればコミュニケーションが取れるが、初対面の人や店員さんなどと会話をすることは苦手だ。話そうとしても言葉がスムーズに出てこない吃音症もあるため、外出先で注文をする時はスマホのメモを見せる。
ただ、“こだわりが強い”という特性により、好きなことや興味のあることを突き詰めることは得意だ。カメラに興味を持ったのは、2020年頃。自分用に大好きな東京ディズニーリゾートのフォトアルバムを作ろうと思ったからだ。
趣味の一環で撮影した写真をインスタグラムに投稿すると、フォロワーが急増。多くの反響も寄せられた。
フードフォトグラファーを目指し始めたのは、2024年の11月のことだ。きっかけは、7年ほど勤務していた飲食店を退職したことだった。
その飲食店は特別支援学校を卒業する頃、店長から声をかけてもらい、勤務することになったそう。同僚はみな特性を理解し、働きやすいようにサポートしてくれたが、一部の学生アルバイトから「なんで、あの子だけ特別扱いされてるんだ」という声が上がった。
「料理長は、僕のことをあまり知らない学生たちにそう言われることが悔しくて、『もっとコミュニケーションを取れるように』と言いました。理由は後から母が聞いてきてくれましたが、僕としては信頼していた料理長から発達障害のことを言われたことがショックで立ち直れず、お仕事を辞めました」
人とのコミュニケーションが上手く取れないたくまろんさんにとっては、就労前の面接は大きな壁。そこで、コミュニケーションが取れなくてもできる仕事はないかと考え、自宅で撮影を行うフードフォトグラファーになろうと決めた。
被写体の“シズル感”を重視しながらシャッターを切る日々
プロのフードフォトグラファーになり、写真の仕事で自立して家族を安心させられるようになりたい。そう思いながら、カメラの腕カメラの腕を磨き続けてきた、たくまろんさん。
その努力は着実に実になっており、2025年の春には手作りのプリンを撮影した写真が、東京カメラ部が主催する「おいしい瞬間 フォトコンテスト by おいしい写真教室」で入賞を果たす。
この写真は、写真展『シネマなひととき展-あなたの日常を映画のように-』に出展する際に撮影した中の一枚だったそう。
なお、写真展にはテーマに沿って、ハイライトやシャドウのコントラストをやわらかく抑えるフィルター「ブラックミスト」を活かした写真を持ち込んだ。
「この写真は、撮影から表現まで自分らしさが詰まった1枚。自分にとって大きな挑戦だったこともあり、印象に強く残っています」
なお、たくまろんさんは写真を見ただけで「おいしそう」「食べたい」と感じてもらえる“シズル感”を意識しながら、カメラのシャッターを切っているという。
「プリンに落ちるカラメルの一滴や苺にかかるチョコレートの艶など、その瞬間の空気感や温度まで伝えたい。見た目だけでなく、香りや音、味まで想像できるような一枚を目指しています」
特性により飲食店でのフード撮影は難しいが、食の魅力を伝えたいと願う気持ちは人一倍強い。飲食店や企業の大切な商品をひとつひとつ丁寧に撮影し、魅力を写真で伝えられる存在になりたいと思い、努力を続ける日々だ。
“自閉スペクトラム症の僕”だから出会えた写真や人がいた
フードフォトグラファーという職は、生まれ持った自閉スペクトラム症の捉え方を変えるきっかけも授けてくれた。
対人関係の悩みを感じることはあるが、この自分であったからこそ、写真との出会いがあり、出会えた友人もいた。そして、たくさんの人に写真を見てもらえたのも、この特性があったからだと、生まれ持った特性を受容することができるようになったのだ。
「自閉症スペクトラム症に限らず、障害は“個性”や“武器”になり得るものだと、僕は思っています。もちろん、こうした言い方が好きではない方がいることも理解しています。ただ、この世の中に“普通の人”はいないと思っています。誰もがそれぞれ、何かしらの個性を持って生きているのではないかなと」
また、たくまろんさんは、自身の障害や特性をマイナスに捉える人に向け、自分のペースで人生を歩むことの大切さを説く。
「難しく考えすぎないことも大切なのかもしれません。僕自身もしんどくなったり、自分が嫌になったりすることがあります。それでも少し休みながら、自分のペースで進んでいけたらいいと思っています」
自分が生まれ持った“好きではない部分”をプラスに受け止めるのは、なかなか難しい。だが、見方を変えてみてこそ、得られる発見や見える道はたしかにある。たくまろんさんの生き方は障害や特性がある人だけでなく、自己受容の難しさに直面している人にも刺さるはずだ。