京都府福知山市のご当地グルメ「ゴム焼きそば」がピンチに陥っている。弾力ある食感と輪ゴムに似た色合いの麺が特徴で、戦後に市内のお好み焼き店で誕生した庶民の味だが、独特で手間のかかる製法を守ってきた唯一の製麺所が5月に廃業したため、提供を断念する店が相次いでいる。「歴史を途絶えさせたくない」と、自ら製麺を始めた店主がいる。
発祥は、同市中ノで長年親しまれたお好み焼き店「神戸焼」。創業者の故永井孝三郎さんが戦時中に中国・満州で食べた広東麺の味が忘れられず、地元の製麺業者と試行錯誤の末に再現したという。この麺を使って焼きそばを出す店が1980年代には市内で15店ほどに普及した。
ゴム焼きそばの名を世に広めたのは、同市駅前町の「粉もの屋」店主植村有志さん(76)らが2012年に結成した協議会だった。各店の常連客らが付けた愛称「ゴムそば」に目を付けた。
当時、福知山駅の再開発で駅北一帯の商店街が活力を失いつつあった。植村さんは「神戸焼から連なる物語と名称のインパクトに活路を見いだそうとした」と振り返る。B級グルメブームにも乗り、多くの観光客らを引きつけるご当地グルメに成長した。
ゴム焼きそばの特徴は、生麺を流水で締めながら2度蒸しして仕上げることで生まれる。製造を担ってきた市内の高見製麺所が5月に廃業し、取引先だった数店舗が提供できなくなったという。
「粉もの屋」では、客の9割がゴム焼きそばを注文する。植村さんは「この味を求めてくる客のために何とかしたい」と決断。同製麺所から製法を教わり、独自のアレンジを加えて太麺と中太縮れ麺の2種類を自家製造し始めた。
協議会を一緒に立ち上げた「神戸焼」や「ふじ」はもう営業していない。植村さんは仲間たちとの軌跡を振り返り、「ゴム焼きそばにはいろいろな物語がある。みなの思いを継いで、もう一度盛り上げたい」と話す。