最近、絵を描く際はタブレットやタッチペンなどを使用したデジタル派が多いですが、やはりペンで直に描いたアナログの絵やイラストにも特有の魅力があります。SNSに作品を投稿する胡桃さんは万年筆でペン画を描くイラストレーターで、以前X(旧Twitter)に投稿された短編漫画『春をぬくめて』は、多くの人から注目されて1.4万の「いいね」を獲得。2匹のネズミによる温かいストーリーが好評を博したようです。
お気楽な赤毛と真面目な黒毛の熱い友情物語
冬に向けてたくさんの食料を蓄えないといけない2匹の黒毛と赤毛のネズミ。赤毛はお気楽な性格で、黒毛が何度も教えたブナの実が取れる場所をいまだに覚えていませんでした。
そして、食料のドングリやクルミを探しに繰り出すと、黒毛は真面目に品定めをしているなか、赤毛は黒毛にちょっかいを出すばかり。そんななか、赤毛が「ボクは頭がお気楽だから、いつか君がジャンプしても届かないような所へ行ってしまいそうで怖くなるんだ」と打ち明け、黒毛は「君から離れるなんてありえないのに」と応えます。友達同士の2匹はお互いにとって欠かすことのできない大切な存在なのでした。
今度は黒毛が、何度も怪我をしている赤毛の耳について「ボロボロじゃないか!」と指摘し、さらに「僕達は、体が少し欠けるだけで死につながるんだぞ!」と注意します。しかし、赤毛は話を聞いておらず、クルミに首がハマって抜けなくなっていました。
食料の調達が終わったあとは巣に敷く草を探すことに。すると、赤毛が天敵であるキツネの毛を見つけます。「はやくここから離れよう!」と黒毛が言った直後、後ろにはネズミたちの何倍もの大きさのキツネの姿が。黒毛が襲われそうになった時、赤毛はキツネの顔面に体当たりをします。
その衝撃でひるんだ隙に2匹は逃走。何とか逃げ切ると、キツネに噛みつかれたことで赤毛の尻尾が切れた状態に。相変わらず赤毛は「良い体当たりだったでしょ?」とお気楽な様子のなか、黒毛は自身を責めてしまいます。
そして、心配になった赤毛が「どうしたの?そんなに耳が下がって…」「頑張って聞くからちょっと簡単におしえてよ」と尋ねると、「抱きしめてほしいだけなんだよ」と応える黒毛。すると、赤毛は「なぁんだ!そんなことか!」と言って、2匹はお互いに抱きしめ合うのでした。
読者からは「とても素敵な話」「幸せな気持ちになった」「ラストで泣いた」などの声が。そこで作者である胡桃さんに、同作を描いたきっかけについて話を聞きました。
デジタルではなく万年筆で描くことにこだわる理由とは?
―同作を描いたきっかけを教えてください。
対照的な2匹の関係を描きたいと考えたからです。頭が良く、たくさんの可能性を考え行動する黒毛の子とお気楽で刹那的に行動する赤毛の子たちの信頼関係の在り方や伝わり切らない思いを描くことができればきっと素敵な作品になると考えました。
―同作のなかで、特にお気に入りの場面があれば、理由と一緒にぜひお聞かせください。
10ページ目の「つまり僕のこと大好きって事でしょ?おお分かりさ!」の場面です。なにも考えていないようで物事の本質を理解しているような、赤毛の子の可愛らしさと深みを出せた場面だと感じています。
―作中の動物たちはリアルなタッチのなかに愛嬌があるような印象で、すべて万年筆によるペン画で描かれているとのことですが、どのような経緯でこの作風になったのでしょうか?
最初はデジタルツールを購入できるようになるまでの間、アナログイラストを制作しようと考えていました。しかし、そのなかで「メビウス」というペンネームで活躍する作家の方を知りました。その世界観と表現力に大きな衝撃を受け、アナログでのモノクロ表現や描画にどんどんとハマっていきました。万年筆を使用する理由は強弱をつけるのが簡単でインクを付け直す手間や持ち運び安いなど理由は様々ですが、何よりかっこいいからという理由で使用しています!
―読者にメッセージをお願いいたします。
これからも現状に満足せず、より良い表現を突き詰めていきます。読んでくださった皆様にアナログ描画の魅力を伝え、一息つけるような作品を制作していきますので、応援していただけると嬉しいです。
<胡桃さん関連情報>
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