お酒、ギャンブル、ゲーム、推し活…。あなたは何にハマっていますか。“不良患者”と“不良医師”を名乗る京都府立大の現役准教授と依存症治療の第一人者が、自らの依存経験を赤裸々に告白しつつ、依存症について語り合う本が出版された。依存症という病気と趣味の境目はどこか。もやもやを抱えている人は、読めば心が少し楽になるかもしれない。
題名は「酒をやめられない文学研究者とタバコをやめられない精神科医が本気で語り明かした依存症の話」と独特だ。著者は京都府立大文学部准教授の横道誠さんと、国立精神・神経医療研究センターの松本俊彦医師。2人は「依存症に対する従来の定説にもの申したい」とする。
横道さんは40歳の時、周囲とコミュニケーションがうまくいかず、毎日死にたいと思い詰めるようになり、1年半休職した。両親は、キリスト教系の新宗教の信者で、幼少期には日常的にガスホースで体を打たれるという虐待のトラウマもあり、20代から毎日大量に飲酒もしていた。
休職中に複数の発達障害があると診断された。さらに、酒の飲み方も治療が必要と言われ、依存症の専門外来に通うようになった。そこで出合ったのが同じ悩みを持つ人たちが本音を語り合う「ミーティング」だった。
参加者の赤裸々な告白に最初は驚いたが、共通点も数多くあり、「生きづらいのは自分だけじゃない」と思えるようになった。「自分を認め、生き方を変えていこうと思えるきっかけになった」と振り返る。
一方、松本医師は専門医でありながら、ヘビースモーカーと言えるほどの喫煙者でもある。どんなに周囲からとがめられてもやめるつもりはないという。だからこそ、依存症の人の気持ちが分かり、寄り添う治療につながっているとする。
本は、そんな2人ならではの経験を語り合い、依存症が身近な病だと知ってもらおうと企画した。ミーティングの語り合いになぞらえて、往復書簡という形式にした。
松本医師は書簡で、依存症になるのは「だらしない」からではなく、心に痛みがあり、飲酒したり薬物を使用したりすることで、一時的につらさや自殺願望を緩和させるための「自己治療」という役割があると明かす。「人が何かにはまる時、そこには必ずピンチが存在する。依存は支援につながる入場券だと知ってほしい」と強調している。
さらに、依存症の治療は「対象を断つこと」という固定観念も覆す。酒にしろ薬物にしろ、使用をやめなくても減らすなどして、使用によって生じる健康や社会上の悪影響を減らす「ハームリダクション」という考え方があるという。「回復につながる環境が大事。『ダメ絶対』だけで治る人はいない」
横道さんは、そんな松本医師の言葉で、自分を理解したり気が楽になったりできたという。酒だけでなく、過食や買い物などいろんなものに「依存」する傾向があったのは、「死にたいくらいつらい現実から逃げるためだったんだと知りほっとした」と明かす。さらに、断酒を強いられないことに安心し、かえって飲む量を大幅に減らせた。
2人が伝えたいのは、依存症は心の痛みの緩和に一時的につながるが、孤立が深まると死に直結してしまう可能性が高いということ。そのため、自分を受け入れてくれる仲間と出会い、自分自身が自分を認めてあげることが何より大切と説く。
横道さんは「バランスが壊れたら誰もが依存症になる危険性がある。だけど回復する方法が必ずあると知ってほしい」と言葉に力を込めた。
太田出版。2420円。