廃屋で生まれた野犬の子
埼玉県に住む山本己太郎さんとチャムちゃんの出会いは、偶然というよりも、運命に導かれた奇跡のようなものでした。
チャムちゃんが生まれたのは、赤城山にある一軒の廃屋。そこに住み着いた野犬が産み落とした赤ちゃんたちが、保護団体「群馬わんにゃんネットワーク」によって救われました。
しかし、まだ数日しか生きていなかったチャムちゃんは、ミルクがうまく飲めず、か細い命の糸を繋いでいたのです。ボランティア団体のひとりが前橋で自宅保護し、懸命に世話をしてくれたおかげで、ようやく2カ月を迎えるまでに成長しました。
我が家に迎える犬は保護犬
山本さんがチャムちゃんと出会ったのは、そんな彼女が無事に家族のもとへと旅立てるようになった頃。
「偶然見た保護団体のホームページで、赤ちゃんのような愛らしい目をしたチャムちゃんに目を奪われました。もともと我が家には先住犬のじろうがいましたが、じろうも保護犬。そして、その前にいた犬も保護犬で、家族全員で『我が家に迎える犬は保護犬』と決めていました」
じろうに似た妹を迎えたいという父親の想いもあり、山本さんは前橋まで足を運び、チャムちゃんを新しい家族として迎え入れたのです。
ピアノの演奏に合わせて呼び鈴を鳴らす
新しい家にやってきたばかりのチャムちゃんはとても活発で、お転婆盛り。家具という家具に噛みつき、ピアノや椅子の脚までかじりました。
また、先住犬のじろうに悪戯を仕掛けてはよく唸られ、それでも怖がらずに無邪気に過ごしていたそうです。山本さんは初めての子犬育てに戸惑いもありましたが、その純粋で天真爛漫な姿が何よりも愛おしく、毎日が新しい発見と笑顔に包まれていきました。
チャムという名前は、山本さんの家族に代々受け継がれる大切な名前でした。じろうの前に飼っていた女の子の犬も「チャム」と呼ばれていたため、その名前を受け継いだのです。そうして迎えられたチャムちゃんは、まるで家族の一員であることを理解しているかのように、家族の愛を一身に受けて成長していきました。
チャムちゃんには、誰もが笑顔になる特技があります。それは「呼び鈴を鳴らすこと」です。前足で器用に「チーン」と呼び鈴を鳴らし、その音を合図におやつをもらうのが大好きです。
山本さんがピアノを弾き始めると、まるでコラボレーションするかのように「チーン」と鳴らすチャムちゃんの姿に、山本さんはいつも心を癒されています。お腹を見せて甘える「へそ天」の姿や、愛らしく呼び鈴を鳴らす姿は、日々の疲れを一瞬で吹き飛ばしてくれる大切な存在です。
「犬は人間のように言葉を話すことはできませんが、それ以上に気持ちを理解し、寄り添ってくれる。チャムはまさに、かけがえのない最高のパートナーです」と山本さんは語ります。
山本さんは、チャムちゃんと一緒にいることで笑顔になり、温かな気持ちになれるそうです。