大谷翔平選手の資金を盗んで違法賭博に使ったとして、ロサンゼルス・ドジャースが通訳の水原一平さんを解雇した件について、ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表は「額が大きく(依存症は)軽症ではない」とギャンブル依存症の深さを指摘しつつ、「アメリカは依存症理解が進んでおり、回復施設や自助グループとつながれば、ギャンブルはやめられる」と道筋を示しました。
米国メディアの報道によると、大谷選手の弁護士は、大谷選手が「大規模な窃盗被害に遭った」とし、水原さんが違法なブックメーカーに賭けるために数百万ドルを着服したと告発しました。水谷さんはサッカーなどのスポーツ賭博に多額を費やしたとみられます。大谷選手の銀行口座から450万ドル(約6.8億円)が使われ、その資金で水原氏の損失をカバーしたと報じられました。米スポーツ局「ESPN」によると、水原さんは取材に応じ、大谷選手が負債を肩代わりしていたことを明らかにしました(後に撤回)。
ギャンブル依存症問題を考える会の田中紀子代表はギャンブル依存症当事者や家族と向き合い、支援に取り組んで来ました。かつて違法薬物で逮捕された高知東生(たかち・のぼる)さんとともに依存症の啓発活動に取り組み、元KAT-TUNのメンバー田中聖(こうき)さんの回復支援にも携わっています。
田中紀子代表は、水原さんのギャンブル依存症の状態について「額が大きく、軽症ではない」と指摘します。
「ギャンブル依存症の心理として『ギャンブルで負けた金は、ギャンブルで取り戻そう』と思い込んでしまいます。負けが込むほど『取り返さなきゃ』と思い、深みにはまっていくケースが多いんです」
ー水原さんは通訳として年7500万円とも言われる報酬を得ていました。
「当初は一平さんもお金に余裕があったと思います。一方、大きなお金が入ると、金銭感覚が狂ってギャンブルにはまってしまうことがあります。親の遺産などが入り、お金の使い方が変わってしまった依存症当事者の方もいらっしゃいます。大谷選手のそばで(契約金など)巨額のお金のやり取りに関わっていたら、金銭感覚が変わっていってもおかしくありません」
ー水原さんが行っていたスポーツ賭博とは。
「アメリカで広がっているスポーツベッティング(スポーツ賭博)はスポーツとギャンブルの興奮がかけ合わされて、非常に危険です。スポーツ観戦はお金を賭けていなくてもハラハラドキドキします。そこにギャンブルの興奮が加わるので、興奮は2倍になります。試合の勝ち負けだけではなく、『このサーブが入るか』『大谷はこの打席で打つか』といったことから賭けられ、試合中にひっきりなしに賭けられるよう、賭けのポイントが次々に現れます。若い人でもはまりやすく、危険性は競馬や競艇の比ではありません」
「また、アスリートはスポーツが好きで、勝負事が好き。アスリートはギャンブル依存症の罹患率(りかんりつ)が高いという研究が複数あります。日本でもスポーツベッティングを合法化しようという動きがありますが、絶対に合法化してはいけません」
ー水原さんはギャンブル依存症から回復できるでしょうか。
「アメリカは日本より依存症への理解が社会的に進んでおり、ギャンブル依存症の回復施設や自助グループも数多くあります。私もロサンゼルスの回復施設を見に行ったことがあります。回復を目指す人たちとつながり、治療プログラムを受け続ければ、ギャンブルをやめ続けることはできます。嫌疑がかかっている状態で日本に帰ることは難しいかもしれませんが、むしろアメリカで治療に取り組んだ方が良いかもしれません」