2023年9月、栃木県内の動物保護団体が多頭飼育崩壊を起こしたと報じられました。行き場を失ったワンコたちを救う活動を行うはずの団体が、さらにワンコたちを追い詰めるというやりきれない思いが募る事件でした。
東京・足立でワンコの保護・譲渡活動を行う保護犬猫カフェPETS(以下、PETS)の代表も、このニュースを見て「関東圏での事件だし、うちにもレスキュー依頼が来るかもしれない」と考えていました。しかし、かかってきた1本の電話で頭が真っ白になりました。
2年前に奄美大島で起きた多頭飼育崩壊の現場で、代表やさまざまな団体関係者が力を合わせて救ったワンコたちの2匹が、この栃木県の団体の多頭飼育崩壊現場にいると聞かされたのです。ワンコにとってみれば2度も苦しめられた格好です。代表は当時の記憶を蘇らせました。
あのときが天国と地獄の運命の分かれ道だった…
2年前の奄美大島での多頭飼育崩壊現場から羽田に代表が戻ってきた際、空港である女性と一緒になりました。
その女性は救われたワンコたちの搬送ボランティアさんで「この後、栃木まで連れていくんです」と言っていました。つまり、PETSと栃木の保護団体が関東圏での引き取りとなり、ここが分かれ道になってしまったのです。
実際、PETSがこのときに保護したワンコは後に優しい里親さんとのマッチングを果たし、今では愛情をたっぷり受け幸せに暮らしています。
一方、栃木ではエサもろくにもらえず、糞尿まみれ。さらにオスメス混在な上に未去勢のオス同士のケンカが多発する現場だったそうです。
この動物保護団体は、クラウドファンディングなどで多額のお金を集め、支援物資も廊下に山積みになっているのに、なぜかワンコたちは痩せており、犬舎は糞尿まみれ。資金はあるはずなのに、肝心のワンコの世話を怠っていたのです。
よくある多頭飼育崩壊現場とはまるで違う対応に唖然
代表はスタッフとともに、栃木の現場へ向かいました。
そこで出会った栃木の保護団体関係者に、できるだけ多くの命を救い出そうとPETSや連携する他の団体を考え18匹ほどの引き出しを提案すると、すんなり「ああ、良いですよ」と返されました。過去の多頭飼育崩壊のレスキューで大変だったのは、飼い主の説得でした。飼い主本人は「飼育崩壊していない」「どのワンコもうちの子だから1匹たりとも渡さない」と主張することが多かったからです。
しかし、栃木の保護団体関係者はすんなりOK。むしろ「お世話するのが面倒くさい」と言わんばかりの対応でした。代表やスタッフは悔し涙をこらえながら行き場を失った18匹のワンコたちを引き取って帰りました。
騒動に乗じて介入する謎の団体も
さらに、この事件発覚直後、騒動に便乗した金儲け目当てとおぼしき団体が介入し、それを地元行政がすんなり認め事態収束を見守ることなく去っていったりと、状況はさらに混沌としました。こうした状況に代表とスタッフは心を痛め、憤りを抑えきれませんでした。
PETSが考えるワンコの保護は単純明快です。
「行き場を失ったワンコの命を救い、十分なエサを与え、清潔な環境でお世話をする」「持病があるワンコには、もちろん適切な医療ケアをする」「その上でワンコたちの幸せへと導いてくれる里親希望者さんの申し出があれば、譲渡する」
もちろん、こういった活動にかかる「お金」は避けて通れません。栃木の多頭飼育崩壊現場の関係者や、後からやってきた別の保護団体は「お金」のことしか頭にないように映り、むしろワンコたちはその「手段」に使われているように見えました。
PETSと関係団体が手分けしてお世話することに
この多頭飼育崩壊現場からPETSが引き出した18匹は、全国各地の連携する団体へと引き取ってもらうことにし、最終的にPETSでは5匹のワンコのお世話をすることになりました。このうちの1匹は人馴れしておらず咬傷犬でした。一般に咬傷犬は嫌がられがちですが、代表は「そういう子が私は好きなのよ」と積極的に引き受けました。
行き場のないワンコの最後の砦であるはずの保護団体で、再び心に傷を負うことになってしまったワンコたち。さらなる未来に、今度こそ本当の幸せがあることを祈るばかりです。