岡山県動物愛護センターで、自ら産んだ子犬たちと一緒に保護された、ハンナというお母さんワンコがいました。ハンナはリードを着けた散歩に全く馴れていない様子でしたが、殺処分の危険が感じられたため、しあわせの種たちで引き出すことになりました。
愛護センター・保護団体ともに抱えるキャパシティ問題
現在、岡山県動物愛護センターは厳しい状況に陥っています。収容されるワンコが増加する一方、なかなか譲渡先が見つからないためキャパオーバーとなりつつあるのです。こういった事情から、収容されたワンコたちの中でも、咬傷犬や気性が荒く攻撃性の強いワンコ、そして、なかなか人馴れが進まないワンコは「譲渡対象外」とされ、センターでの預かり期間が長くなるほど、「殺処分」の危険性が高まります。
当初のハンナには噛み癖があり、リードをつけられることも極度に嫌がりました。そのため「譲渡対象外」とみなされ、半年以上にわたって岡山県動物愛護センターで暮らしていました。
子犬たちは授乳期間を終えて岡山県動物愛護財団が広く里親募集を行なう「一般譲渡」へと移動していきましたが、ハンナはひとりぼっちです。そして「殺処分」の対象となる可能性がありました。
収容当初から、ハンナのことが気になっていたのが、地元・岡山でワンコの保護活動を行う団体、NPO法人しあわせの種たち（以下、しあわせの種たち）のスタッフです。「散歩用リードにさえ馴れることができれば、きっとハンナも新しい里親さんに譲渡することができるだろう」と考えていました。ただし、保護団体もまた、預かりスタッフさんのキャパシティなどの問題を抱えており、すぐに引き出すことができませんでした。
そんな中、保護できる環境が整ったところでハンナを引き出すことに成功。ハンナは「殺処分」から逃れることができました
ハンナ・スタッフ双方が警戒しながら向き合う日々
しあわせの種たちによって引き出されたハンナは、まず預かりスタッフさんの家に連れて来られました。しかし、やはり警戒心は相当で、「怖い」と感じると吠えたり、唸ったり、歯をむき出しにしたりと、なかなか打ち解けてくれません。
預かりスタッフさんの家にある玄関までの飛び出し防止ゲートも、ハンナは簡単に飛び越えようとします。また、散歩用のリードも相変わらず極度に嫌がり、リード自体をなくしてしまおうと、ガシガシと噛むこともありました。
様々なバックボーンを持ち、心に傷を負った保護犬とのコミュニケーションには慣れている預かりスタッフさんでしたが、ハンナの頑な態度には少々たじろいだそうです。預かりスタッフさんは少しずつ少しずつハンナとの距離を縮め、信用を勝ち取ろうと慎重に接するようにしました。
お互いの様子をうかがう日が続きましたが、ある日、ハンナの尻尾が上がり、散歩にもすんなり行き、クン活（地面の匂いを嗅ぐなど落ち着いて歩くことができること）をしてくれるようになりました。
本来のやさしい性格がついに
リードを着ける際、興奮して逃げたり吠えたり、咄嗟に口が出たりすることもあるハンナですが、かつてのようにリード自体を噛み付くことはなくなりました。また、「散歩＝楽しい」「散歩＝リード」と認識した素振りを見せてくれるようにもなりました。
家の中でもリラックスした姿を見せてくれるようにもなりました。名前を呼ぶと尻尾を振って近付いて来てくれるようになり、先住犬のワンコたちと争う様子も見られません。そればかりか、気の合う先住犬と頻繁に仲良くじゃれ合う姿まで見せてくれるようになり、預かりスタッフさんとの信頼関係も深まって笑顔を見せてくれるようになりました。
「気性難」とされたワンコでも心を開いてくれた好例
先日はハンナがドッグランデビューを果たしました。最初は隅っこで周囲で走り回るワンコを眺めるだけでしたが、緊張もほぐれたのか、他のワンコの元へ自ら出向いてあいさつするようにもなりました。また、他のワンコの飼い主さんの元へ行き、おやつをもらってうれしそうにする姿も。初対面の人間にも警戒することなく、自ら近付いていけるようになったのです！
動物愛護センターでは気性難とされたハンナ。でも、保護当初とうって変わって表情もすっかり穏やかになりました。たっぷりの愛情をワンコに注ぎ、正面から向き合えばいつか必ず心を開いてくれることの好例にもなりました。
預かりスタッフさんは、ハンナの成長を喜び、そして、さらにハンナが本来持っているであろう優しい心がもっともっと表に出してくれることを願い、今日もトレーニングを続けています。そしていつの日か、ハンナを優しく迎え入れてくれる里親さんが現れ、ハンナを幸せな第2の犬生へ導いてくれることをあらためて願うのでした。
NPO法人しあわせの種たち
https://shiawasenotanetachi.amebaownd.com/
