殺処分直前で保護されるワンコのなかには、妊娠中の母親ワンコがいることもままあります。兄妹犬のダンバン(オス)とスンミン(メス)も、妊娠中に保護された母親ワンコから生まれました。母親ワンコはもちろんですが、ダンバンとスンミンという新しい命が救われたことに胸をなで下ろしましたが、実はこの2頭とも生まれながらにして「ほとんど目が見えていない」ということが後に発覚しました。
誕生してから一週間後、2頭の行動に異変が…
母親ワンコを愛護センターから引き出したピースワンコ・ジャパン(以下、ピースワンコ)のスタッフ。まず母親ワンコにケアを施し、お腹の中にいるワンコの出産に立ち会いました。このときに誕生したのがダンバンとスンミンです。とってもかわいいパピーの兄妹でしたが、誕生してから一週間ほど経った頃、2頭ともフラフラしてひっくり返ります。また通常の子犬がよくやる「うつ伏せで這う」という動作もうまくできません。
どうも2頭も目が見えていない様子で脳疾患も疑われたため、すぐにスタッフは2頭を連れて動物病院へ。獣医さんに診てもらうと「水頭症の疑いあり」という診断でした。
その後のMRI検査で水頭症ではなかったものの、前庭疾患と思われる症状が続き、「蓄積病」という病気の可能性が生じました。蓄積病とは代謝がうまくできないことで老廃物を体内に蓄積してしまう病気で、末期には細胞が死滅するとされる恐ろしいもの。結果的に短命に終わってしまうことがほとんどです。遺伝子検査をした大学病院は「珍しい症例なので、現状の解明は難しい」との見解でした。
嫌な胸騒ぎがするスタッフでしたが、少なくともダンバンとスンミンの「眼球が張っている」という目の不調を改善するため、獣医さんと相談して脳圧や眼圧を下げ、脳神経疾患の症状を抑える投薬をしてもらうことにしました。
ピースワンコでは病気を抱えるワンコや高齢ワンコにも懸命にケアし続けます。そして、スタッフは全国のどこかにきっといる、心優しい里親さんと2頭の命を繋ぐことを諦めず、病歴を含めた日ごろのそのままの姿をインスタグラムで発信し続けました。
そんな中で、1本の電話が入りました。
ワンコの知識豊富な里親希望者さんに迎え入れられることに
電話の主は、ピースワンコがインスタグラムに投稿したダンバンの様子を見た里親希望者さんでした。「目に障がいがありながらも、元気にがんばっているダンバンを家族として迎え入れたい」と言います。すでに3頭のミックス犬を飼っている方で、自宅には広い庭もあるとのこと。もちろんワンコの知識も豊富の様子です。
里親希望者さんは当初、ダンバンのみを迎え入れる希望でしたが、話を進めるうちに、スンミンも一緒に迎え入れたいと言ってくれました。
後日、ダンバンとスンミンとの面会に訪れくれた里親希望者さん。2頭ともすぐに馴染み、この方の家族として新しい生活をおくることになりました。里親希望者さんはダンバンとスンミンを迎え入れた後の治療の継続ももちろん約束してくれました。
「新たな犬生が幸せなものになりますように」
ピースワンコ卒業の日。重篤な障がいを抱えながらも、ダンバンとスンミンははしゃぎながら体をぶつけあっていました。目がほとんど見えないことから、お互いにわざと体をぶつけあい、お互いの距離感や周りの環境を確認しているわけですが、里親さんとの新しい生活を前に、どこか楽しそうに映りました。
ダンバン、スンミンともに新しいハーネスとペットお守りをつけてもらい里親さんに連れられ施設を後にしました。2頭の後ろ姿を見ながらスタッフは「心優しい里親さんの元で、ダンバンとスンミンらしい犬生をおくれますように」と心の中で願いました。