血混じりのよだれ コンビニ前で衰弱した野良猫を保護し病院へ 「看取りになるかも」と獣医師 家猫として愛され1週間を生きた

古川 諭香 古川 諭香

 一緒に過ごせたのはたった1週間だったけれど、あの子はまぎれもなく家族だった――。今年の8月25日、そんな思いを胸に官兵衛くんを看取ったのはtetsurowさん。官兵衛くんは飼い主さんとの出会いにより、野良猫としてひっそり亡くなるのではなく、家猫として愛されながら天に旅立ちました。

コンビニ前で見かけた痩せっぽっちの老猫が気になって

出会いは、とあるコンビニ前。とぼとぼ歩く姿が気になり、接骨院で奥さんを拾った後、飼い主さんは再びコンビニへ。官兵衛くんは「開けて」と言うかのように、とあるお店のドアを前足でひっかいていました。

飼い主さんが車を降りてそばへいくと甘え鳴きし、頭突き。

「人懐っこくてかわいいと思いましたが、あげられるものがないし、お店に出入りして、ご飯をもらえているのかなと考え、『車に気をつけるんだよ』と言って別れました」

ところが、この出会いを奥さんに話すと、意外な事実が。実は奥さん、半年ほど前から官兵衛くんを見かけていたのだそう。より一層、官兵衛くんが気になった飼い主さんは家に迎えたいと相談。

しかし、すでに4匹の猫がおり、飼い主さんに1番懐いている子が尿路結石になったことから、奥さんは「これ以上、ストレスのもとを増やすのはかわいそう」と躊躇。

たしかに、先住猫は優先すべきだ。でも、人への警戒心がない年老いたあの子が、どうしても気になる。そう思った飼い主さんは奥さんが就寝した後、官兵衛くんがいた場所へ。

「もう一度会いたいと思う一方、実はお店で飼われていて、夜は家に入れてもらえていたらいいなと願っていました」

けれど、目に飛び込んできたのは、お店の室外機の上で眠る官兵衛くんの姿。

「僕を見つけると、室外機から飛び降りてきましたが、歩くのもやっとの足どり。よだれが垂れていたので、口内炎や歯肉炎を患っているのだろうと思いました」

官兵衛くんは飼い主さんが持参した水を飲み、ウェットフードを半分ほど食べて、再び室外機の上へ。

飼い主さんは、やはり野良であったことに落胆し、「また来るからね」と伝え、帰宅。翌日も官兵衛くんのところへ向かいました。

しかし、その日から会えない日が続き、再び対面できたのは5日目のこと。

自分なりに休む場所を持っていることを知り、安心したものの、厳しい天気の中、痩せて年老いた猫が舗道を歩いていても、誰も気に止めない状況をやるせなく思いました。

そこで、保護を決意。翌日の深夜、購入したキャリーケースを持ち、官兵衛くんのもとへ。いつもどおり、水とご飯をあげましたが、なぜか官兵衛くんは食べようとせず。

「不思議に思い、口元を見ると、よだれに血が混じっていました。」

飼い主さんは、急いで動物病院へ。検査の結果、体のあちこちに異常があり、深刻な状態であると判明。獣医師からは「看取りになるかもしれません」と言われましたが、飼い主さんは「それでもいいです、できることをしてあげて下さい」とお願いしました。

「酷暑や雨の中で人知れず息絶えてしまうより、家で見送ってあげたかったんです。」

野良猫ではなく「家猫」として亡くなった官兵衛くん

保護後5日間は栄養剤の点滴やインターフェロン注射、ステロイド注射などのために通院。おうちでは、かつて息子さんが使っていた部屋を官兵衛くんの部屋にしました。

「名前は、強く回復してほしいとの願いを込め、有名な武将である黒田官兵衛から頂戴しました。親しみを込め、カンちゃんやカン爺と呼んでいましたね」

家に誰もいなくなる平日には、一緒に仕事場へ出勤。その際は妨害などせず、そばでずっと眠っていたそう。

「時々、突然起きて流し台を見上げていました。水を飲みたいのかと思い、抱き上げると、蛇口から出る水を飲み始めた。水が出るところを理解している姿を見て、人に飼われていたことがあるのではないかと感じました」

人懐っこい官兵衛くんはお迎え当初から、一緒に寝ようと手招きすると、躊躇なく膝の上へ。

やっと家に入れてもらえ、人に甘えられたのだろう…。痩せた背中を撫でながら、そう感じ、飼い主さんの目には涙が溢れました。

歩けなくなったのは、亡くなる前日。教えなくても失敗しなかったトイレにも行けなくなり、寝返りを打つのも、やっとの状態に。口腔内の痛みからか、強制給餌は拒否。シリンジで水をあげても、顔をそむけて拒絶。口の端から注入しても、飲まずにこぼすようになりました。

その姿を見て、飼い主さんは「もう頑張らなくていい。ここにいるから、ゆっくり眠りなよ」と声かけ。すると、しっぽをパタパタ動かして返事をしてくれました。

「尻尾を動かさなくなってからも、指で肉球のあたりを触ると、かろうじて握り返すように手を動かしてくれました。最期は、まるで何か言いたそうに口を開いてから呼吸が止まりました」

ひとりで逝かせたくない。残り少ない時間、穏やかに過ごせ、少しでも幸せを感じてほしい。そう思いながら接してきた飼い主さんは1週間という短い期間の中でも、自分たちの間にはたしかに絆が生まれていたと感じています。

「もっと長く一緒にいたかった。また会いたいですし、もっと早く出会えていたら…と悔しい。人工的な建造物や車が行き交う道路があり、厳しい気候にさらされ、虐待の恐れがある現代の日本に、猫が住みやすい場所なんてないと思う。だから、衰弱している猫、怪我をしている子、生後間もない子猫など、保護が必要な猫を見たら、どうか医療にかけてあげてほしいです」

そう語る飼い主さんは、官兵衛くんの遺骨をこれまで弔ってきた先代猫の横に並べ、大切に保管。官兵衛くんは今もなお、「家族の一員」として、愛でられています。

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