神戸が誇る老舗帽子店の「布マスク」が大ヒット中 完売が続き、とうとう帽子も売れ始めてしまう

黒川 裕生 黒川 裕生

神戸を代表する帽子専門の老舗「マキシン」が5月30日正午から、帽子縫製の技術を生かして作った布製マスクをネット販売する。4月に数量限定で売り出したところ、由緒ある帽子店とマスクという意外な組み合わせが注目を集め、あっという間に完売。新型コロナウイルスの影響で本業の帽子が深刻なダメージを受ける中、思わぬ形で活路を見出しているという。

マキシンは皇室や五輪日本選手団などの帽子を手掛けてきたことで知られる、1940(昭和15)年創業の名店。神戸のハイカラ文化を象徴するトアロードに本店とアトリエを構え、全国約60店の百貨店で主に婦人帽子を販売している。

マスク作りを渋る帽子職人たち

しかし、コロナ禍によって取引先の百貨店は軒並み休業する事態に。本店も一時営業休止を余儀なくされたため、売り上げがほぼゼロになってしまったという。そこで営業統括部長の柳憲司さんは、帽子の生地で、当時全国的に不足していたマスクを作ることを企画。80年の歴史で、もちろん初めての試みだ。

とはいえ、15人の職人たちがすんなり応じたわけではない。中には「なぜ自分たちがマスクを作らなければならないのか」と渋る職人もいたため、柳さんは「今までと同じことをしていたらこの危機を乗り越えられない」と懸命に説得したという。

「10年前に『紳士用の帽子も作ろう』と提案したときも、『何を考えているんだ』『店を潰す気か』と猛反対されました。良くも悪くも古い店なので、新しいことを始めるのは難しい。マスクを作ろうとしたことで、その体質を改めて思い知らされました」

絶不調のネット販売、マスクで大爆発

実はマキシンが帽子をネットでも販売するようになったのは2012年頃からで、それまではほぼ対面販売のみだったそうだ。ではネット販売で新規の顧客を開拓できたかといえばそうでもなく、数年続けても腰が抜けるほど反響がない。柳さんは「本当に全然売れない。ど底辺です」と自嘲気味に語る。

そして紆余曲折を経てどうにか完成したマスク。その「全く売れない」ネット通販のサイトで売り出したところ、ああ、なんということでしょう。4月上旬の第1弾、約1000枚はわずか13分で完売してしまったのです。伝統と確かな技術に裏打ちされたデザイン性は好評を博し、その後も新作を出すたびに注文が殺到しているというではありませんか。

「嬉しいことに、サイトではマスクが呼び水となって帽子も売れるようになりました。畑違いとはいえ、マスクが話題になって完売したことは、少し時代に取り残されつつあった私たちにとって大きな成功体験となり、自信にもつながっています」と柳さん。「普段、帽子が完売することなんてまずありませんからね(笑)」

見出したチャンス「今攻めないでいつ攻める」

コロナ禍で創業以来のピンチに見舞われている状況は変わらない。それでも柳さんは「荒療治ではありますが、新しい刺激を受けて、これからの店のあり方を考えるきっかけになっています。今攻めないで一体いつ攻めるんだという気持ちですよ」と前を向く。

新作「涼感さらさらマスク」は、表地にオーガニックコットン、裏地には涼感が特長のクールマックス素材を使用。内側が蒸れにくく、夏でも快適に着用できる工夫が施されているという。帽子縫製で培われた生地裁断により、美しいシルエットに仕上がっている。

1枚2750円(税込み)。アイボリー、グレー、ブルー、ミント、ピンクの5色、S〜LLの4サイズ展開。父の日ギフトとして、神戸タータン柄も用意している。

■マキシンwebショップ https://kobemaxim.stores.jp/

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