「おばあちゃんは、もう帰ってこれないの」 退院が見込めない高齢の飼い主 猫の面倒を見る気がない親族 取り残された2匹を救ったのは

ふじかわ 陽子 ふじかわ 陽子

白と黒のツートンカラーがチャームポイントとパンダくん(推定10歳以上)は、おばあちゃんが迎えに来てくれるのを待っています。捨てられた自分たちを可愛がってくれ、大切にしてくれたおばあちゃんとまた一緒に暮らしたい。

でも、それは二度と叶わない夢。おばあちゃんは病気で入院し、退院の見込みがないのです。だからおばあちゃんは、パンダくんを保護猫団体に託しました。その保護猫団体とは、埼玉県草加市を中心に活動している「ハピネスねこ譲渡会」です。

近隣住民からの相談

実のところ、ハピネス譲渡会にパンダくんの相談をしたのは、おばあちゃんではありません。おばあちゃんが暮らすマンションの隣の部屋に暮らす女性でした。入院中、パンダくんともう1匹の猫、クロちゃん(推定10歳以上)のお世話を頼まれていたのです。

2023年1月、おばあちゃんが入院。その時、おばあちゃんの親族が女性を訪ねてきて、言ったのだそう。「今までお世話になりました」と。続けて言いました。おばあちゃんの部屋を解約することと、猫たちを殺処分するということです。

女性はビックリしました。退院の見込みがないからマンションを解約するのは分かるものの、猫たちを殺処分しなくても良いではないかと。そうは言っても、女性は猫を引き取ることはできません。すでに中型犬と暮らしているからです。この犬と猫たちの反りがあわず、引き取ったら誰もが不幸になる予感がしました。

そこで、ハピネスねこ譲渡会に相談をしたのです。1月25日のことでした。

「おばあちゃんは、もう帰ってこれないの」

女性から連絡を受けたハピネスねこ譲渡会の代表・海老塚貴子さんはすぐパンダくんたちに会いに行きます。整理整頓されたおばあちゃんの部屋には、部屋と同じく毛並みの整ったパンダくんとクロちゃんが待っていました。

クロちゃんは海老塚さんの姿を見ると、すぐ寄ってきてくれたんです。足元にスリスリ。でも、パンダくんは違います。おばあちゃんの部屋に知らない人がいるのが不安なのでしょう。部屋の隅っこに行って、じっと海老塚さんの姿を見つめます。

海老塚さんはそんなパンダくんに言いました。

「おばあちゃんは、もう帰ってこれないの。私と一緒に行こう」

パンダくんは海老塚さんから顔を背けました。それはまるで「ここで、おばあちゃんを待つ」と言っているかのよう。海老塚さんも女性も胸が締め付けられました。でも、もうここにいられない。

永遠に続くはずだった何気ない日々

ハピネスねこ譲渡会のシェルターに到着してからもパンダくんは、おばあちゃんを待っています。窓の外を眺め、通る人を目で追う。パンダくんにとっておばあちゃんは家族というだけでなく、命の恩人。おばあちゃんがいなかったら、パンダくんもクロちゃんも今ここにいられなかったのではないかと、お世話をしていた女性から教えてもらいました。

パンダくんとクロちゃんがおばあちゃんの部屋のベランダに現れたのは、2020年ごろ。どうやら引越しの際に捨てられてしまったよう。野良猫生活をしたことがない2匹は途方に暮れていました。その時、手を差し伸べてくれたのがおばあちゃんだったのです。

おばあちゃんはちゃんとご飯を食べさせてくれ、病院にも連れていってくれました。夜になったら一緒のお布団で寝て、朝は一緒に朝日を浴びる。そんな何気ない毎日が永遠に続くと、パンダくんは考えているのでしょう。今は少しだけ離れ離れになっているだけ。

そんなパンダくんの姿を見るにつけ、海老塚さんは切ない気持ちで一杯になります。

高齢者とペットの問題

このパンダくんのような猫は年々増えていると、海老塚さんは言います。猫と暮らしていた高齢者が他界し、親族が誰も引き取ることなく保護猫団体に預けるケースが本当に多い。

親族から連絡があるのはまだ良い方で、飼い主が入院したり他界したりしてから近所の方からの連絡により、猫が取り残されていることが発覚するケースもあるとのこと。

置き去りにされる猫を減らすためには、何をしたら良いでしょうか。海老塚さんはこう提言します。

「ペットと暮らす高齢者は、身内と呼べる方が少ない孤独な方が多い傾向にあります。寂しさを埋めてくれる存在として、犬や猫がいるのでしょう。でも、ひとたび何かあるとペットは置き去りになります。高齢者とペットの問題は、私たちボランティアだけでは手が回りません。行政や動物病院、地域の方と連携を取っていければ、救える子たちは増えるはずです」

ペットと暮らしていると分かるよう、玄関にポスターやステッカーを貼っておくことも大切なのだそう。

猫にも思い出があるからこそ

今、パンダくんとクロちゃんは新しい家族を待っています。おばあちゃんとの思い出を、2匹から聞いてもらえないでしょうか。人間の都合で2度、家族と離れることになったパンダくんとクロちゃんには安心できる家庭が必要です。

ハピネスねこ譲渡会は毎週土曜日、東武スカイツリーライン「獨協大学前駅」で青空譲渡会を開催しています。雨天中止ですので、公式Twitterをご確認ください。

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