「愛犬の死を受け入れられない」ペットロスの女性を救ったのは、劣悪な環境で感情を失ったトイプードル

和谷 尚美 和谷 尚美

京都市中京区でセレクトショップ「ソフィアコスチューム」を営む清川敬子さんは、数年前に愛犬のクッキーちゃんを17歳でなくし、悲しみに暮れていた。

クッキーちゃんを思い出しては涙を流し、一緒に散歩をした橋の上からクッキーちゃんの名前を叫んだり、エレベーターに一人で乗れなくなったりと、娘の菜々央さんやセレクトショップの常連客が心配するほどの激しいペットロス症状に精神安定剤が手放せなくなっていた。

見かねた獣医師が「世の中には不幸な犬がたくさんいる」と保護犬の里親募集サイトを紹介。勧められるままサイトを覗いてみると1匹の小型犬に目が止まった。トイプードルのマカロンちゃんだった。「老犬と書いてありましたが、私も若くないですし、子犬はちょっとプレッシャーだったので、ちょうどいいかと思ったんです」。

毛並みも悪く痩せ細った姿も「愛おしい」

マカロンちゃんはもともと、高齢のために業者が手放したところをボランティアによって保護された繁殖犬だった。犬生のほとんどを狭いケージで過ごしていたため、保護当初は身体中に毛玉ができ糞尿まみれのひどい状態だったという。

人とコミュニケーションをとることも、外で走り回ることも、おもちゃで遊んだこともなかったマカロンちゃんは、敬子さんと初めて会った時も、まったくの無表情でしっぽを振ることもなく、感情を表すことができなかった。毛並みも悪く、体重はわずか1キロ程度。決して良い状態ではなかったが、それでも小さな彼女を一目見た時、敬子さんの胸に「なんて愛おしいんだろう。この子をぜったいに幸せにしてあげたい」という気持ちが自然に湧き上がってきたという。

本当の家族になった日

無事、清川家に引き取られたマカロンちゃんだが、ケージ生活が長かったことから散歩すらままならなかった。外に連れ出してもぐるぐるとその場で回ってしまい、前に進めない。表情も乏しく、どこに連れて行ってもじっと大人しく座っているだけ。敬子さんいわく「まるでオブジェ」だった。

それでも敬子さんや菜々央さんから惜しみない愛情を受け、日を追うごとにマカロンちゃんに少しずつ変化が起こる。散歩に行くと草むらに鼻をつけたり、匂いを嗅いで興味を示したり、ご飯やおやつがほしくて甘える仕草を見せるようになった。

そして一番大きな変化を見せたのはある日、敬子さんが帰宅したときのこと。いつものように感情を見せることのないマカロンちゃんだったが体をよく見るとわずかながら尻尾を振っている。マカロンちゃんが本当の意味で家族の一員になったと敬子さんが実感した瞬間だった。

キラキラのプリンセスに変身

「マカロンに出会ったことで、世の中にはこんなにも不幸なわんちゃんがたくさんいるんだということを知りました」。そう話す敬子さんは、マカロンちゃんを迎えてから、犬を飼おうと考えている人に保護犬の存在や、里親という選択肢について伝えるようになった。

休日は菜々央さんとマカロンちゃんを連れて、ドッグカフェや旅行に頻繁に出かけ、重度のペットロスだったことが嘘のような毎日を過ごしている。

また、マカロンちゃんも今では元気に走り回り、散歩も上手にできるようになった。毛玉だらけだった体も月に一度の美容院通いでふわふわになり、アパレル店の看板犬らしくおしゃれな衣装に身を包み、プリンセスに大変貌を遂げた。

「クッキーがいなくなってしまったとき、私がわんちゃんの世話をしていたのではなく、わんちゃんが私の世話をしてくれていたんだって気が付いたんです。クッキーからもマカロンからもとても大きなものをもらったので、愛情を込めて接することで少しずつ返せたらと思っています」

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