毛がなく痛々しい姿で保護されたハチくん 愛する家族と出会い、いつしかモフモフのぼっちゃん犬に

和谷 尚美 和谷 尚美

顔やお腹にはほとんど毛がなく、皮膚病と汚れで赤黒くただれた肌が剥き出している。ボランティア団体「ピュアハートラバーズ 」の佐藤さんが初めてハチくんに会ったとき、その姿はあまりにも痛々しく、直視できないほどだった。

ハチくんは、2017年に奈良県大和郡山市の住宅街で彷徨っていたところを保護され、ちょうど夏真っ盛りの8月だったことから「ハチ」と名付けられた。ボロボロの姿だったものの人懐っこく、首輪をしていたたため飼い犬だったことは間違いなかったが、方々に確認しても飼い主は現れず、ハチくんは里親が見つかるまでピュアハートラバーズで暮らすことになった。

ひどい姿で保護されるも人が大好き

病院に連れていくと重度のアトピーと、なにかしらの食品アレルギーがあることがわかった。ボランティアの渡辺さんをはじめとするスタッフが週に1度のシャンプーと薬用オイルでこまめにケアをし、アレルギーの原因をつきとめるため、チキン、まぐろ、サーモンなどさまざまなタイプのフードを試した。

「ハチはとにかく健気でいい子でした。シャンプー中もおとなしく、体のどこを触っても怒らない。おやつをあげても遠慮がちに寄ってきて“食べてもいいの?”とこちらをじっと見るんです。吠えることもなく、サークルの中でいつも静かにしてくれていました」と、佐藤さん。おだやかな性格のハチくんは、一緒に暮らす保護猫たちにもやさしく、抱っこが大好きで控えめなアピールがたまらなくかわいかったと話す。

この子は絶対に幸せになってほしい

そんなハチくんだけに、「何がなんでもいい里親を探してあげたい」と、スタッフ全員が心底ハチくんの幸せを願っていた。渡辺さんらのケアの甲斐もあって、ハチくんの毛はふわふわになり皮膚の状態もかなり改善したが、ケアの継続は欠かせない。何度か里親のお見合いをするも、普通の犬以上に世話がかかることから躊躇する人も少なくなかった。

「どの犬も、最後まで必ず幸せにしてくれる方にしかお譲りすることはありませんが、ハチに関してはここまできたら、最高に幸せになってほしいという気持ちが強く、いつもより厳しくなっていたかもしれません(笑)」と、佐藤さんは笑う。

 

ハチくんが保護されてから2年が経った頃、里親希望の連絡があった。京都に住む山下真広・あき子さん夫妻だ。あき子さんは元々大の犬好きだったが、子供の頃に愛犬をなくして以来、ペットを飼うことに躊躇していた。しかし、やはり犬のいる生活が忘れられず、さらに友人を介して保護犬の実態を知ったことから、意を決して元繁殖犬の小梅ちゃんを迎えたものの、その生活も小梅ちゃんの病気によりわずか4年で終わってしまう。奥さんほど犬好きではなかった真広さんも人懐っこい小梅ちゃんに夢中になっていたため、二人の喪失感は相当なものだった。失う悲しみは大きいものの、もう犬のいない生活には戻れないと、真広さんがどこか小梅ちゃんに似ているハチくんを里親募集のサイトで見つけ問い合わせたのだった。 

待ってよかった!やっと出会えた最高の家族

ハチくんのトライアルが始まったのはハチくんが保護されてからちょうど2年後の2019年8月。「この子は8月に縁があるんだね」と名前は「ハチ」のままにした。

皮膚病が完治したわけではないため、お風呂や薬の投与などケアが必要になることは事前に伝えられていたが、「お世話をする時間もコミュニケーションかなって。あと定期的に病院にいくことで、もし病気になっても早期発見できそうですし、特に問題ないかと思っていました」とあき子さん。

ハチくんは、まるでここが自分の家だとわかっているかのように、初日からリラックスした様子ですっかり山下家に馴染んだ。外食や飲みにいくのが大好きな山下さん夫婦は、ペット同伴可の店にハチくんを連れて行って食事を楽しんだり、休みの日には川遊びやキャンプに出かけるなど”犬のいる生活“を満喫しているという。「この家にまた犬がいることが本当に幸せ。ハチに会えてよかった」あき子さんは満面の笑みを浮かべる。今はコロナのため、以前ほど出歩けられないが、家で一緒に過ごす時間が増えたことから信頼関係がさらに強くなった。

ボロボロの姿で発見されたハチくんは、もこもこ、ふわふわな京都の坊(ぼん)となり、たっぷりと甘やかされて毎日を幸せに過ごしている。

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