伊藤忠、イスラエル軍事企業との協力打ち切り 高まる国際批判 日本企業は人道感覚を問われる

治安 太郎 治安 太郎

昨年10月7日以降、イスラエルとイスラム主義組織ハマスとの間で戦闘が激化しているが、イスラエルは自衛の範囲を明らかに逸脱した攻撃を続け、既にパレスチナ側の犠牲者数は3万人に迫ろうとしている。それによって諸外国の間ではイスラエルへの批判の声が広がり、イスラエル支持に徹している米国のバイデン政権もネタニヤフ政権への苛立ちや不満を強めている。米国はそれによって対米不満が拡大することに懸念を抱いている。

そして、その影響は経済の世界にも及んでいる。伊藤忠商事の子会社である伊藤忠アビエーションは2月5日、イスラエルの軍事企業エルビット・システムズと昨年3月以降結んでいる協力関係の覚書を今月末で終了すると発表した。

具体的な理由については明らかになっていないが、オランダ・ハーグにある国際司法裁判所が1月、イスラエルに対してジェノサイド(大量虐殺)を防止するためにあらゆる措置をとるよう命じた。伊藤忠アビエーションとしては、イスラエル企業との取引を継続することで国際的な批判を浴び、また伊藤忠全体のイメージが大きく悪化する恐れがあるので、それを避ける狙いがあったと考えられる。

伊藤忠アビエーションは防衛装備品の供給などを担っており、エルビット・システムズと覚書を交わしたのは、防衛省からの依頼に基づき自衛隊の防衛装備品を輸入するためだったという。

今回の伊藤忠子会社の対応は極めて賢明な判断だったと言えよう。イスラエルによるガザ侵攻以降、中東だけでなく、北アフリカや東南アジアのイスラム教国家を中心にイスラエルへの批判の声が特に強まっており、イスラエル製品の不買運動がネット上で広がり、店舗からイスラエル製品がなくなるなど経済にも影響が波及している。また、イスラエル支持に徹する米国への風当たりも強くなり、インドネシアやマレーシアではマクドナルドやスターバックスへの不買運動が広がり、実際客足も減っている。

これは日本企業にとっても他人事ではない。イスラエルへの批判の声が強まるなか、イスラエル企業と良好な関係を維持することはビジネス面では利点が多い一方、イスラム教国家では不買運動の標的となって売り上げが下がるだけでなく、企業のレピュテーション(評判)が悪化する可能性もある。

実際、日本企業の中にはイスラエル企業との関係を維持することで、主要な進出先であるインドネシアでの売り上げが今後大きく落ち込むことを懸念する声が聞かれる。

今後いつまでイスラエルによる攻撃が続くかは分からないが、たとえ終わってもイスラエルへの非難の声はしばらく落ち着かないだろう。イスラエルは中東のシリコンバレーと呼ばれ、最新テクノロジーでは世界の先端を走り、イスラエル企業に接近する日本企業の数は増加傾向にある。日本企業にとってそういったイスラエル企業は非常に魅力的であろうが、政治的な観点を考慮した付き合い方というものが求められている。

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