<ビッグモーター不正・前編>悪質な構図…「一企業の問題ではない」「保険制度を根本から揺るがす」

「明けない夜はない」~前向きに正しくおそれましょう

豊田 真由子 豊田 真由子

具体的にどういう「被害」が生じている?

①保険会社から過大な保険金(=修理代)が支払われる(※)
②保険契約者(自動車所有者)の次回の保険料が上がる
③当該自動車保険自体の保険料が上がる。

   ◇   ◇

(※)損害保険契約の契約者は自動車の所有者なので、本来は、所有者が修理業者に修理代を払う、保険会社が修理代分の保険金を車所有者に支払う、ということになるわけですが、手続き簡素化で、保険会社が修理代分の保険金を、修理業者の口座に振り込む形を取ることが多くなっています。

   ◇   ◇

上記について、具体的に見てみます。

①過大な保険金の支払い

ビッグモーター社は、車体に故意に傷を付けたり、不要な部品交換や塗装をしたり、実施していない架空の作業を計上したりして、過大な保険金が支払われていたとのことで、同社の特別調査委が6月末にまとめた報告書によると、2022年11月以降の保険金申請約8000件のうち、1275件で不適切行為が見つかったとのことです。

②保険の等級が下がることによる、過大な保険料の支払い

個人の自動車保険では、1~20まで20段階の等級(ノンフリート等級)があり、等級の数字が大きいほど保険料の割引率は高くなります。等級は、1年間無事故だと翌年に1つ上がり、保険金支払対象事故があったら下がります。車両修理をした場合には、原則1等級または3等級下がり、その分、保険料が上がることになります。

また、本来は、修理代がそれほど高額でなければ、翌年の保険料が上がるよりも、修理代を自己負担で支払った方がよかったというケースで、修理代が不正によって高額になったために、保険を使わざるを得なかった場合もあります。保険を利用する場合には、免責部分といわれる修理代の一部を契約者が自己負担することもあります。

損保会社はこうした、不当に下げられた契約者の等級を是正し、契約者が払い過ぎた保険料を返還していく方針です。

上記①②の「被害」の是正については、ビッグモーター社の行った膨大な件数の修理について、正確な調査と情報開示とが必要になります。

③自動車保険の保険料率が上がる

保険料率は、「損害保険料率算出機構」が算定する参考純率(※)を目安に、保険会社ごとに定期的に改定が行われ、それによって保険料が変動します。今回のような一企業の不正請求が、即座に参考純率に影響を与えるということにはならないとは思いますが、こうしたことが広く横行するようなことになれば、理論的には、保険料が上がる可能性もあるということになります。

   ◇   ◇

(※)損害保険の保険料率の仕組み

損害保険の中でも特に国民生活に密着する保険については、社会性・公共性の観点から、法律に基づいて設立された非営利民間法人の「損害保険料率算出機構」が、会員保険会社等から大量のデータを収集し、科学的・工学的手法や保険数理などの合理的な手法を用いて、保険料率(自動車保険や火災保険などの「参考純率(純保険料率)」及び自賠責保険・地震保険の「基準料率(純保険料率+付加保険料率)」)を算出しています。独占禁止法遵守の観点から、損保会社には参考純率を使用する義務が課されているわけではありませんが、目安として利用されます。

損害保険料算出機構は、保険金の支払いの増加などによって、保険料率を変えます。例えば、2021年6月には、衝突被害軽減ブレーキなど、先進安全技術の普及促進等を背景とした交通事故減少の影響を受け、自動車保険の参考純率を、平均で3.9%引下げ、2023年6月には、自然災害などによる保険金支払いの増加とリスク環境を踏まえた対応により、住宅総合保険の参考純率について、全国平均で13.0%引き上げました。

―――――――――――――――――――――――――――

次回は、ビッグモーター社と損保会社との関係、今後の展開、消費者ができること、などを考えたいと思います。

<ビッグモーター不正・後編>保険トラブルに巻き込まれないために…契約者ができること 問題の背景にある「情報の非対称性」

おすすめニュース

気になるキーワード

新着ニュース