2021.08.07(Sat)

酸っぱい物が甘くなる!?　不思議な「ミラクルフルーツ」で１型糖尿病の子に「甘み」を　挑戦を追った

　酸っぱい物を甘く感じさせる不思議な果実「ミラクルフルーツ」の力を借りて収益を上げ、それを支援事業団体「一般社団法人ミラクリン」（代表理事・石橋範隆）に還元する。そんな仕組みが大阪で立ち上がり、注目されている。主な目的は１型糖尿病と闘う子どもたちへの継続的なサポート。株式会社「ミラクリングループ」の谷川原信会長（４８）に、その思いを聞いた。

　谷川原さんによると「一般社団法人ミラクリン」は、３つのサポートを目的に立ち上げられた。世界の恵まれない子どもたち、糖尿病患者、そして障害者の方々。特に力を入れているのが全国に約１４万人いるとされる「１型糖尿病」と闘う方々への支援だ。

　ご存じのように糖尿病には１型、２型があり、１型は先天性で食生活や生活習慣とは関係なく、小児期を中心にどの世代にも起こり得る原因不明の難病。２型と異なり、命を守るために小さな子どもたちが毎日４～５回もインスリン注射で補充しなければならず、その費用もかかる。

　しかも、１型患者はまだまだ認知が低く、生活習慣病と勘違いされることも多い。そのため、病気を隠して生きている人や、周りに理解してもらえず、つらい思いをしている人も少なくないと谷川原さんはいう。

　そこで「一般社団法人ミラクリン」では「治る未来へ」をテーマに１型糖尿病専門の情報発信ポータルサイト「ID GATE（アイ・ディー・ゲート）」を今年１月に開設。「不安を抱えている人の悩み相談」「糖質の低いオススメの食品や便利グッズ」「支える家族の実体験」などを書き込んでもらい、支え合ってきた。

　その中心にいるのが、運営ディレクターの島村みのりさんだ。自身は２４歳のときに劇症１型糖尿病を発症。ある日当然、毎日インスリン注射が必要になった自分の身体を受け入れることができず、生きていく自信をなくしたという。

　そんなときに始めたインスタグラムで知ったのが健気に自分の手で注射を打つ子どもたちや、わが子を懸命に支え、前向きに生きていこうとする親御さんたちの姿。そんな人たちに感銘を受け、等身大の自分を発信し続け、それが縁でいまにつながった。

　「１型の認知と理解を深めてもらうのはもちろん、１型の患者や、そのご家族にご覧いただき、共有や共感していただきたいです」

　では、ミラクルフルーツとはそもそも一体何なのか。見た目はコーヒー豆くらいの大きさの赤い果実。それ自体は全然甘くないが、これを食べてから酸っぱい物を食べると甘く感じるというしろもの。その歴史を語るには昨年、７９歳で亡くなった１人の男を避けては通れない。

　中村憲司さんは３４年前に、この不思議な果実の大量栽培に着手。実が取れるまで５年から７年かかると言われるミラクルフルーツに多くの可能性があることを確信し、２７年間掛けてフィリピンに東京ドーム約２・５個分の自社農地を作り上げた。国内シェアはなんと９５％という。

　さらに、世界初のフリーズドライ化に成功。これにより長期保存と流通の流れが一気に改善し、長年の夢だった低価格化も実現した。現在は５粒で１０００円程度だが、さらに値段を抑える努力を続ける。もちろん、中村さんらがそこまで情熱を傾けたのは何よりミラクルフルーツの成分にミラクリンという酸味を甘味に変える効果があり、この効果で糖質制限されている１型糖尿病の子どもたちを救えると考えたからだ。

　「甘い物を食べることに罪悪感を感じたり、甘い物が食べられない子どもたちに、せめて甘味を感じさせてあげたい。そう思って、取り組んでいます」と”中村イズム”を継承している谷川原さん。

　さらに、この魔法の果実には様々な効用があり、自身が取締役会長を務める株式会社「ミラクリングループ」では健康食品、化粧品、ワイン事業、さらにスイーツ事業にも乗り出している。今後は通常なら酸味が強すぎて破棄される野菜や果実のフードロスを防ぎ、障害者支援にもつなげる「農福連携」にも発展させていく考えだ。

　では、本当に酸っぱい物が甘～く変化するのか。実際、私もだまされたと思って、ミラクルフルーツを２分ほど口に含んだ後に差し出されたヨーグルトにポッカレモンを垂らしていただいてみた。口にの中にはじわりと唾液が。しかし、口にしてみると…。あら不思議、はちみつヨーグルトそのものの食感だった。その効果は３０分ほど持続する。甘い物を控えなければならない人には朗報だろう。