懸念される“尖閣の南シナ海化” 台湾有事を超える新たなリスク

治安 太郎 治安 太郎

近年は日本でも台湾有事への懸念が広がっているが、我々はそれ以上に尖閣諸島を巡る緊張に注意を払う必要がある。尖閣諸島は日本固有の領土であり、中国が領有権を主張し始めたのは1969年に国連が尖閣周辺に豊富な海底資源があると発表して以降だ。

しかし、中国は海洋進出の強化に伴って尖閣でも強気の姿勢に撤している。石垣市が最近尖閣諸島で実施した海洋調査について、中国は外交ルートを通じて日本に猛抗議し、国家の領土主権を断固として守り抜くため必要なあらゆる措置を取るとけん制した。5月に入っても尖閣諸島周辺の日本の領海に接する接続水域で中国海警局の船4隻が航行しているのを海上保安庁の巡視船が発見した。このように尖閣諸島周辺の海域で中国船が発見されるのは132日連続で、5月1日に確認された中国船の1隻は機関砲のようなものを搭載していたという。 

機関砲のようなものは、単に海上保安庁を威嚇、けん制するためだけではなく、必要があれば攻撃を躊躇わないと考えた方がいい。南シナ海の諸島を巡ってはフィリピンと中国が領有権を争っているが、近年この海域では両国の船が衝突する事態が絶えない。フィリピン政府は3月、南シナ海のセカンド・トーマス礁にある軍の拠点に補給物資を運搬する複数のフィリピン船が中国海警局の船による妨害を受け、そのうち1隻が衝突された後に放水銃を発射され、乗組員4人が負傷したと明らかにした。フィリピン政府は中国に厳重に抗議したが、中国側は仁愛礁(セカンド・トーマス礁の中国名)にフィリピン船が違法に侵入し、中国海警局の船にわざとぶつかったと逆に非難した。

こういった衝突や放水銃による被害は断続的に報告されており、同じく中国と南シナ海で諸島の領有権を争うベトナムにいたっては、中国船による攻撃でベトナム船が沈没する事件も経験している。“尖閣の南シナ海化”は十分にあり得るシナリオだ。

そして、尖閣の南シナ海化は中国に進出する日本企業に一瞬のうちに大きな打撃を与えよう。2012年9月、日本政府が尖閣諸島の国有化を発表したことに端を発し、中国では1972年の日中国交正常化以来、最大規模の反日デモが勃発した。反日デモは北京や重慶など50都市以上に広がり、北京にある日本大使館には1万から2万人あまりが抗議に集まり、ペットボトルやゴミが投げ込まれた。山東省や江蘇省にあるパナソニックの工場には暴徒化したデモ隊が乱入し、工場内から火が出たり、守衛室が壊されるなどした。青島にあるトヨタ自動車の販売店は放火を受けほぼ全焼し、イトーヨーカドーやジャスコ、伊勢丹など日系の百貨店やスーパー、コンビニなどでは窓ガラスやレジが破壊され、多くの商品が略奪されるなどの被害を受けた。

尖閣の南シナ海化となれば、それは一瞬のうちに外交関係を悪化させ、影響は第一に経済の世界へと波及する。中国に進出する日本企業としては台湾有事ともに、いやそれ以上に尖閣の南シナ海化に注意を払うべきだろう。リスクは台湾有事だけではない。

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