レストランなどの格付け本「ミシュランガイド奈良2022特別版」への掲載店が日本ミシュランタイヤ(東京)から16日発表され、奈良市内のレクチャーホールで発表会が開かれた。奈良版は2016年に発表されたウェブ版のみ。今回初めて書籍化され、19日に発売される。掲載されたのは県内101店。最高評価の三つ星はなかったが、関係者に落胆の色はなく、これを機に「スルーされやすい県」の返上を目指す。
対面でのミシュランガイド掲載店の発表会は実に2年半ぶりとなった。ただし、まだまだコロナ感染症対策が必要なため、入場者を制限。華々しくとまではいかなかったが、世界的な格付け本に奈良のみが対象地域となるとあって、注目度は高かった。
あいさつに立った日本ミシュランタイヤの須藤元社長はコロナの期間中にあらためて移動することの喜び、人と会って食事をすることの楽しみを感じたそうで「このガイドが飲食業界には敬意やエールになるよう、またユーザーのみなさんにはおいしい料理との出会いのお手伝いとなるよう願っています」と話した。
続いて、あいさつに立った荒井正吾知事は心なしか落ち着かない様子。「今回、奈良版が出ることをありがたく思います。その一方で、奈良に本が埋まるほどのおいしい料理のお店があるのか。いまでもドキドキしています」と話し、笑いを誘った。
でも、大丈夫。今回は県内の101店舗が堂々と掲載された。ミシュランガイドによると、2019年秋ごろから匿名の調査員が県内をくまなく巡り、情報を更新したしたという。ちなみに調査員はすべてミシュランガイドの正社員。世界統一の評価基準で調査し、評価できるようにフランスで厳しいトレーニングを積んでいるとのこと。もちろん、一般客と同じように食事して料金を払う。掲載については合議制で総意に基づいて決定するという。
まずは食いしん坊にお勧めなのがこれ。価格以上の満足感が得られる料理が提供される「ビブグルマン」には、蕎麦やうどん、ラーメン、洋食、串揚げなど22店が選ばれた。香芝市の「ピッツェリア トラットリア マガジーノ」は自家栽培の無農薬野菜を使用し、野菜の端材や薪の灰を天然肥料として活用しているとのことだった。
今回は時代を反映した「グリーンスター」にも注目が集まった。これはフードロス削減などに取り組んでいる店を対象にしており、大和高田市のイタリア料理「37+1」、奈良市の日本料理「粟 ならまち店」など5店が選ばれた。そのひとつ、田原本町の日本料理店「蔵元料理 マルト醬油」は農薬や化学肥料を使わず、環境に配慮した野菜などの栽培方法を取り入れている点が高く評価された。
また、奈良市の中国料理「中國菜 奈良町 枸杞(くこ)」は「一つ星」にも選ばれており、宮本和幸オーナーシェフは「昨年6月に開業したばかりで驚いています。特にグリーンスターがうれしい。大和野菜などを使ったおいしい料理を提供していくつもりです。お昼の飲茶もぜひ」と話していた。
近くに訪れたら行く価値のある優れた料理の「一つ星」は、この店を含めて18店。さらに、遠回りしてでも訪れる価値のある「二つ星」の4店は、いずれも奈良市にあるイノベーティブ「アルコドゥ」と日本料理「御料理 花墻(はながき)」「白(つくも)」「奈良 而今(にこん)」が選ばれている。
奈良県民も注目した最高位の「三つ星」は残念ながらゼロ。しかし、関係者は前向きにとらえていた。荒井知事は「わたしはどちらかといえばグルメな方だと思っていましたが、知らない店が多かったというのが率直な感想。三つ星はありませんでしたが、若い料理人が多いので、これをきっかけにして上を目指してほしい」とエールを送った。
実際に「奈良 而今」の西原理人店主が「評価は真摯に受け止め、引き続き自分の思いを料理にのせ、お客さまに届けていきたい」と話せば「アルコドゥ」の川島宙店主も「奈良には歴史、文化、さらに食の面でも観光資源が豊富。今回選ばれた人がけん引していかないといけない」と意気込んでいた。
奈良は横浜や佐賀などと並んで昼間、観光しても「ディナーなし、宿泊なし」と言われることが多い。しかし、宿泊施設も整い始めており、今年12月には世界的な食のイベント「第7回ガストロノミーツーリズム世界フォーラム」を国内で初めて開催するなど、食への機運は高まっている。地味な印象を払拭していきたいところだ。