都内で学習塾を運営しているAさんは、通っている生徒の様子を親御さんにも許可を得てSNSで公開していました。楽しそうに授業を受ける様子や、よい成績を獲得して喜ぶ生徒たちの姿が投稿されています。その様子が人気を集めたのか、日に日にフォロワー数も増え、地域では有名な塾となりました。
しかしある時をきっかけに、SNS上で「成績が落ちたら殴ってくるブラック塾」「分からなかったらカンニングしろと指導される」などの誹謗中傷ともいえる投稿が目立つようになってきました。誹謗中傷のコメントは特定のアカウントが発信しており、内容も徐々にエスカレートし、我慢の限界を迎えたAさんは弁護士に相談し本人を特定することにします。
開示請求を経て特定された誹謗中傷アカウントの主は、驚いたことに小学5年生でした。その小学生が言うには、自分は塾に行くこともできず成績が上がらない中、SNSで楽しそうに勉強している塾の様子に、腹が立ったというのです。しかし、事情はどうあれ内容は誹謗中傷にあたります。この場合、損害賠償請求はできるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
ー誹謗中傷をしていた人が小学生でも訴えることができるのですか
その子どもに責任能力があるかどうかが争点になるでしょう。責任能力とは自分の行為が適法か違法か認識できる能力のことをいい、能力の有無は12歳前後で分かれるという判断が一般的です。この場合は小学5年生(11歳)であったため、本人に責任能力は無いと判断される可能性が高いと考えます。
子どもに責任能力がないと判断される場合には、親が監督義務者の責任を尽くしていることを証明しない限り、親の責任になります。ただ実際問題として、親が監督義務者の責任を果たしていることを証明するのはほぼ不可能です。したがって親が損害賠償請求をされることになるでしょう。あくまでも民事上の責任であり、刑事責任は問われません。
ー子どもに責任能力があると判断された場合にはどうなりますか
子どもに責任能力があると判断された場合には、子どもが責任を果たさなければなりません。その場合は子どもに対して損害賠償請求が可能です。親に対しては監督義務者の責任を追求することもできますが、この場合は、訴える側が親の監督義務違反がありその違反が子どもの行為との因果関係があることを証明しなければなりません。したがって、親の責任が問われないことが多いです。
一方で子どもに対しての損害賠償請求が認められた場合、仮に子どもが資産を保有していなかったとしても、訴えた側の請求権がなくなるわけではありません。不法行為の時効は3年ですが裁判上の請求や債務の承認などをおこなえば、支払い能力が身につく年齢まで時効を中断することも可能です。
慰謝料の金額は、個人なら10万円から50万円であることが多いです。子どものしたことだからといって許される問題ではないので、日ごろから子どもとネットの利用方法について話をしておくといいでしょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士 「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないといわれる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。