【大河ドラマ「光る君へ」コラム】清少納言も驚き呆れた? 御嶽詣に派手派手しい衣で参拝した藤原宣孝

大江 篤 大江 篤

女優・吉高由里子さんが主演で平安時代を生きた紫式部を演じるNHK大河ドラマ「光る君へ」。第13回で藤原為時(演・岸谷五朗さん)とまひろ(紫式部)親子のもとを訪ねた藤原宣孝(演・佐々木蔵之介さん)が鮮やかな黄色の着物を着て、為時が「御嶽詣にその姿で行かれたか」とあきれる場面がありました。この場面は、『枕草子』一一五段にみえるお話です。

あわれなるもの(心にしみじみと感じられるもの)として、身分の良い若い男が「御嶽精進」(吉野の金峯山に詣でるための精進)をしていることをあげています。日常から隔離された部屋にじっと籠り、額をついておつとめをしている明け方の礼拝などは「いみじうあはれなり」とあります。そして、その装束は、烏帽子の様子などは、少し体裁が悪く、いみじき人(身分の高い人)とはいえ、格別粗末な身なりで参詣するものだと清少納言は聞いていたと記しています。

ところが、藤原宣孝は、

右衛門佐宣孝といひたる人は、「あぢきなき事なり。ただ清き衣を着て詣でむに、なでふ事があらむ。かならずよも『あやしうて詣でよ』と御嶽さらにのたまはじ」とて、三月つごもりに、紫のいと濃き指貫、白き襖、山吹のいみじうおどろおどろしきなどを着て

というのです。ドラマでは山吹色のおおげさで派手な衣装で表現されたのでしょう。周りの人々は、「すべて昔よりこの山にかかる姿の人見えざりつ」とあきれかえったといいます。

藤原宣孝は四月の初めに御嶽から帰り、六月十日に辞任した筑前守の後任として赴任します。「なるほど、(宣孝が)が言った言葉に間違いはなかった」と評判だったようです。清少納言は、「これはあはれなる事にはあらねど、御嶽のついでなり」と結んでいます。

御嶽とは、奈良県の吉野山から山上ヶ岳に至る「金峯山」と呼ばれる役行者が開いた山岳霊場です。平安時代に浄土教が盛んになると、弥勒菩薩の住む兜率天に往生しようとする信仰や釈迦入滅後、五十六億七千万年ののちに弥勒菩薩がこの世に出現するのをこの地で待つ弥勒下生の信仰の霊地ともなりました。

藤原道長(演・柄本佑さん)も寛弘四(1007)年に御嶽詣をしています。その際、多くの経典を写経し、未来の弥勒下生に備えて、他の奉納品とともに山上ヶ岳に埋納しました。江戸時代に山頂付近から偶然、銘文が刻まれた金銅の経筒が発見されました。そして、納められていた経典の一部は、各所に分散して伝来しています。昨年、2015年に金峯山寺の納戸から新たに9巻発見された経典を文化庁が調査した結果、道長自筆の写経であることがわかりました。

この世の栄華を極めた藤原道長が、来世にどのような思いを抱いていたのか。金峯山を訪れるとともに経典の文字から道長の浄土への信仰に想いをはせてみてはいかがでしょうか。

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神と霊が照射する古代の人々の心を「怪異学」の視点で研究する園田学園女子大学学長の大江篤さん。「怪異学」とは、フシギなコトやモノについての歴史や文学の記述や記録を解読することで日本人の心の軌跡にアプローチする研究分野です。研究者が見る「光る君へ」論を寄稿してもらいます。

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