尼さんが女子トイレに並んだら→「女を捨てたのに、なぜ?」と70代女性 過去には理不尽な思いも「女を捨てても拾ってもいない」

中河 桃子 中河 桃子

「女子トイレに入ろうとしたら驚かれたことがあって『尼さんて髪の毛落としてるんですよね?髪は女の命ですよね?
それを自分で落としたということは女を捨てたということですよね?なのに女子トイレ入るんですか』と言われたことがあります。女を捨ててないし、そもそも拾ってもいない」とツイートしたのは、落語家であり、尼崎市の寺院「道心寺」住職でもある露の団姫(つゆのまるこ、@2yu0)さんです。

「髪の毛を剃っているから女性ではない」との“暴論”にはTwitter民もあぜん。
「なぜそういう解釈になったのか、よくわからないですね。おかしな言いがかり... てことは、ショートカットの私も、その方からしたら「女」を捨ててると認識されてしまうのかな?」
「この解釈で言うと長髪の男性は「男を捨てた」と言うことでしょうか?それで女子トイレに入ったら、どうなるでしょうか?」
「意味が分からん😖尼さんもトイレに入るし」
「考え方もそんなこと言うためにわざわざ話しかけるのも意味がわからん…どういうこと?」
と同様に頭を悩ませる人が続出しました。

投稿主の露の団姫さんは、落語家を目指していた高校1年生の時、死に対する恐怖をきっかけに仏教に目覚め、落語で仏教を広めることを決意。上方落語「露の」一門の創始者が僧侶であったことから入門。3年間住み込みで修行し独立、その後天台宗の比叡山延暦寺で出家されました。

現在は二刀流で活躍。お寺ではDVやセクハラ、夫婦関係や発達障害などの悩み相談も受け付けているそうです。そんな団姫さんに、当時の状況について話を聞きました。

「時代は“男”“女”の二択ではなくなっているのに」

――髪の毛を落とすことで女性と認められなかったということですが、仏教では、髪を剃ることにはどのような意味があるのか教えてもらえますか?

「僧侶が剃髪する理由は“髪の毛は煩悩の象徴”と考えられているからです。髪の毛は剃ってもまた生えてきますよね。煩悩も同じように捨てても、すぐに次の煩悩が生まれてきます。だからこそ、少しずつ伸びる髪の毛を剃りながら、日々湧き上がってくる煩悩をこまめに捨てているのです」

――桂川サービスエリアでの出来事だったとか。

「桂川サービスエリアのお手洗いで、女子トイレには列ができていました。その列に並んだところ、前に並んでいた70代と思われる上品な女性から『尼さんなのに女子トイレに入るの!?』とイヤな顔をされました。

よく男性と間違われて女子トイレでびっくりされることもあるので、そのことかな……?と思いましたが、女性は“尼さん”とおっしゃっていたので、私が女性の認識があるということです。そこで不思議に思っていると、あとはツイートのとおりでした」

――その時の心境は?

「まずは、“髪は女の命”という概念が未だに存在していることに驚きました。また“髪の毛を捨てたなら女を捨てた”という考え方もびっくりで。そして、女を捨てたから女子トイレに入るなという…間違った三段論法ですよね。

この発言には続きがありまして『女子トイレではなく男子トイレに』と言われたのです。“女”でなければ“男”という考え方で、これが一番驚きました。今の世の中は“性の多様性”が叫ばれているように、すでに時代は“男”“女”の二択ではなくなっていますし、そうでなくても考え方が飛躍していると感じました。でも、この考え方を簡単に非難することもできないなと思いました」

――と言うと?

「私自身、落語家の入門当時、女であることでイヤな思いをいっぱいして、もう女であることがいやでいやで。最初は『女が落語家になるな』と否定されたり『ピンク色の着物を着ろ』と押しつけられたりで。私は緑色が好きだしピンク色は似合わないのに、そればかり言われました。そのときになろうとしたのが「男」でした。でも、私は性自認が女性ですから、実際は男になりたいわけでもないし、なろうと思ってもなれない。

そういう出来事にぶつかり続けた結果“女らしさ”や“男らしさ”で人間は幸せになるのではなく、自分の気持ちに正直に、ありのままに生きる“自分らしさ”が幸せになる秘訣だと分かりました。

つまり、私も昔は“女でなければ男”とどこかで思っていたフシがあるということです。ジェンダーの問題は誰が悪いわけでもなく社会からの刷り込みによる固定観念が原因です。だからこそジェンダーの問題を話すとき、相手に対して怒ったり馬鹿にしたりするのではなく、情報をアップデートしてもらう努力と優しさが大切だと思います」

――過去にも今回のように女性性で理不尽な発言を受けたことは?

「いっぱいありますね(笑)。

私の所属する天台宗では、男性も女性も全く同じ修行を一緒にするのですが『男性と同じような厳しい修行はしてないんですよね?』とよく聞かれます。これも固定観念ですね。

その結果だと思いますが、女性僧侶の先輩の中には『お葬式で女性だからと“チェンジ”された』という人もいますし『女性僧侶へのお布施は男性僧侶より少額で良い』と考える人も一定数いると聞いたことがあります。

ちなみに読者のみなさんは“観音様”って男性だと思いますか?それとも女性だと思いますか?正解はどちらでもなく、仏様に性別はありません。

ところが、日本でアンケートをとると観音様は女性だと考える人が多く、反対に、東南アジアでは男性と考える人が多いそうです。

“ジェンダー”とは“生物的な性別(sex)”に対して、“社会的・文化的に作られる性別”のことです。文化や思い込み、固定観念が“男らしさ””女らしさ“を生み出しているのだと感じています」

◇ ◇

髪の長さによる性別への“決めつけ”が、トラブルの引きがねになってしまった今回の出来事について、団姫さんに改めて所感を聞きました。「私の場合は信仰上の剃髪なので好みでも個性でもありませんが、好みで短髪にされる女性がいてももちろんアリだと思います。“その髪型は、だれかに迷惑かけましたか?”と言いたいですね。

これまでにも男性から“髪の毛を伸ばせ”“女が剃髪すると国が亡びる”などしつこくメールやコメントを受けたこともありますが、そのような発言のもとを辿れば、結局は“俺の気に入るオンナ像ではないから”なんです。でも、私は男性を喜ばせるために髪の毛を伸ばすわけでも剃っているわけでもありません。

女性に限らず相手に何かを押し付ける人は相手のことを対等な人間だと考えていなかったり、尊重できていなかったりで、自分だけが正しいと思いこんでいるのではないでしょうか。

今回の件をきっかけに、ジェンダーバイアスについて考える人が増えてくれればと願っています。でも、なぜこのツイートをしたかというと、私は住職ではありますが本職は“カミガタ落語家(上方落語家)”だからです(笑)」

さすが噺家、お見事! Twitterではイベント告知や活動記録、ブログ「はなしの屑籠」では日々の出来事を紹介されているので、興味のある人はチェックを。

露の団姫(つゆのまるこ)さんTwitterアカウント:@2yu0
天台宗道心寺公式サイト:https://doshinji.com/
露の団姫 はなしの屑籠 オフィシャルブログ:https://ameblo.jp/ango-maruko/

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