中国「日本向けビザ発給停止」の真意は 反中包囲網を警戒 さらなる対日制裁措置の可能性

治安 太郎 治安 太郎

習政権によるゼロコロナ政策の撤廃によって中国国内で新規感染者が急増する中、日本が対中水際対策強化を打ち出したことへの報復として、中国は日本向けのビザ発給停止という措置に出た。今回、欧米諸国も同様に水際対策を強化したが、習政権は欧米諸国に対してビザ発給停止の措置を取っていない。また、中国は韓国に対してもビザ発給を停止したが、韓国は中国に対して短期ビザ発給停止という水際対策よりは重い措置を講じており、バランス的にも中国は日本に対して韓国以上に厳しい措置を取ったことになる。

しかし、ビザ発給停止は今後増加することが予想される中国による対日制裁措置の一環に過ぎない。以下2つの理由から、対日制裁措置は増加するだろう。

まず、昨年秋に習政権3期目が始まったわけだが、これまでのところ政権運営がスムーズにいっているとは言えない。昨年秋の共産党大会の前後、北京や上海では一党独裁や習政権に反発する横断幕が掲げられ、抗議する人々の姿が確認された。また、それ以降は長引くゼロコロナへの不満や怒りの声が各地で激しくみられ、中国各都市だけでなく、欧米や日本など世界各国でもゼロコロナの撤廃を求める抗議活動、訴えが一気に拡大した。その後、習政権は国民の訴えに折れる形でゼロコロナを徐々に緩和、ついには撤廃したわけだが、一連の件で習政権は国内からの反発にこれまで以上に神経を尖らせている。

共産党政権はこれまでも同様の課題に直面した際、対外的強硬姿勢を示すことで国民からの不満をかわそうとしてきたが、今回の対日ビザ発給停止もその一環であろう。習政権は欧米と比べ、日本ができることは“遺憾砲”くらいだと見抜いており、対抗措置を取りやすい相手であると確信している。

もう1つの理由は、国際関係における日本の立ち位置だ。米中対立が安全保障や経済、サイバーや宇宙、技術など多方面で繰り広げられる中、日本は昨今軍事安全保障の分野だけでなく、経済安全保障の分野でも米国との結束を強化している。近年、バイデン政権は半導体など先端技術の分野で中国との経済デカップリングだけでなく、同盟国や友好国との間のみでサプライチェーン強化を目指すフレンドショアリングを推し進めている。岸田政権も半導体製造措置で対中規制を強め、バイデン政権と連携を強化しようとしている。しかし、半導体の開発製造に力を入れている中国はそういった反中包囲網の形成を強く警戒しており、米国と日本の切り離しを狙っている。今回のビザ発給停止も政治的圧力の一環であり、日本がその後どのように行動するかを見極めるためのものであろう。

中国は経済成長を続ける中で、大国としての自信を付けてきた。今日では支援を受ける国家から支援をする国家になっており、日中関係の政治力学も今日では中国に傾いている。習政権は中国式現代化、社会主義現代化強国、中華民族の偉大な復興などを掲げているが、それらを達成するにあたって相手になるのは米国のみと認識しており、米国と協力することで中国に向き合う相手を良く思っていない。

要は、米中対立が長期的に続く中で、中国はそういった相手に対しては政治的プレッシャーを掛け、米国との間に摩擦を生じさせようとする。そうなれば、今後日本が中国から厳しい制裁措置、対抗措置を受ける高い蓋然性があるのは間違いなく、我々は今回のビザ発給停止をその視点から捉える必要がある。今回のビザ発給停止は、水際対策強化によって誘発されたことは間違いないが、その核心は、近年の米中対立と日本の立ち位置にあることを絶対に忘れるべきではない。

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